グーグル共同創業者ラリー・ペイジ氏(左)
写真提供:ロイター/©Vincent Isore/IP3 via ZUMA Press/共同通信イメージズ ※Belgium,Denmark,France and Germany Out

 理不尽な要求、無駄な手続き、使いにくいシステム──組織には、人の意欲と時間を奪う“摩擦”が溢れている。問題の本質は何か? どうすれば取り除けるのか? スタンフォード大学の組織論研究者が著した『 FRICTION』(ロバート・I・サットン、ハギー・ラオ著、高橋佳奈子訳/日本能率協会マネジメントセンター)から内容の一部を抜粋・再編集。

 管理職を一掃しフラットな組織への回帰を目指したグーグル。だが、その現場である問題が起きる…。

本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2025年8月14日)※内容は掲載当時のもの

無自覚なリーダーたち

『FRICTION(フリクション)』(日本能率協会マネジメントセンター)

■ ヒエラルキーは必然だが有効でもある 回避策はあるが、見当違いのリーダーは有害だ

 回避策は存在するとはいえ、序列の最上位の人々は、見当違いで、自信過剰で、利己的になる危険を抱えている。ヒエラルキーは、階層があまりに多く、ばかげたルールや伝統による制約がある場合、あるいは、リーダーが権力の格差に柔軟性を認めず、固定されたものと見なす場合には、有害なものとなる。

 多くの著述家やコンサルタントが、権力の格差をなくし、ヒエラルキーを駆逐することができれば─少なくともすべての組織を大幅に「フラット」にしたり、そこでの「階層を廃止」したりできれば─あらゆる場所で高い効率やイノベーション、幸福を実現できると主張しているのもそのせいだ。経営の専門家であるゲイリー・ハメルが「官僚制は滅びるべきだ」とか、「トップダウンでの権威構造を支持せず、順応性やイノベーション、エンゲージメントを強化することに真摯に取り組むべきだ」と述べているのも同様の理由からである。

 しかし、どんな生物が集団を構成する場合でも、ヒエラルキーは不可避で有用でもあるということ、また、階層や権力の格差が少なければ少ないほどいいとも限らないことを示す、極めて強力な証拠も存在する。

 心理学者のデボラ・グルーンフェルドとララ・ティーデンスが記しているように、ヒエラルキーの形態はそれぞれに大きく異なりはするが、全構成員の立場や権力がほぼ平等な集団や組織を見つけ出すことは不可能だ。研究対象が人間であれ、犬であれ、ヒヒであれ、ほんの数分観察すれば、ヒエラルキーははっきりとわかる。外部の目から見ても、リーダーとその部下のヒエラルキーはすぐに把握できる。

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 また、構成員間の権力の格差を縮め、階層の数を減らそうとする組織も存在するが、デボラとララによれば、「本質的にヒエラルキーのない組織を研究者が探そうとしても、見つけることはできない」のである。指揮者のいないオーケストラとして有名なニューヨークの室内管弦楽団オルフェウスの例を紹介しよう。

 オルフェウスでは、演奏する曲目ごとに異なる楽団員が「コンサートマスター」に任命される。一方で、楽団の設立者であり、26年にわたって楽団を率いてきたジュリアン・ファイファーが、「どの曲目を組み合わせて演奏するかを含め、プログラムの内容決定についての全権を握っている」。

 デボラとララは、ヒエラルキーをなくそうとしたり、序列をあいまいにしようとしたりすると、その組織に対する構成員のコミットメントが弱くなり、生産性が低下し、地位をめぐる競争が機能しなくなり、調整や協力が難航することも明らかにしている。ヒエラルキーの階層や、トップダウン型のコントロールが過度に少ないのは、過度に多いのと同じくらい有害なのだ。

 これはまさに、グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジが、2001年に会社が従業員400人ほどの規模に成長したときに気づいたことだ。ラリーは、グーグルに掃いて捨てるほど中間管理職がいなかったころの古き良き日々に戻りたいと強く思い、マネジャーたちを一掃した。私たちは『Scaling Up Excellence』で、それについて次のように記している。「100人以上のエンジニアが、たった1人のエグゼクティブに報告をするため、当のエグゼクティブは手が回らなくなってしまい、あちこちで不満や混乱が生まれた。

 中間管理職がいなければ、エンジニアたちが仕事を進めることはほぼ不可能で、エグゼクティブたちもグーグル社内の実態を把握し、影響力を行使することができない」。ラリーはすぐに追い出したマネジャーたちをグーグルに呼び戻した。同社がのちに実施した調査プロジェクト「プロジェクト・オキシジェン」では――過去の数百もの調査と同じく――従業員とチームの成功には、有能なマネジャーが不可欠であることが確かめられた。

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 すなわち、ヒエラルキーをなくすことも、あるいはフラットな組織が常に優れていると考えることすらも、正解ではないのだ。フリクション・フィクサーの仕事は、できる限り効果的な序列を確立し、運用すること─そして、影響力を及ぼせるなかで最良の序列を実現するために力を行使することだ。ソフトウェア企業シトリックス社の前CEOであるマーク・テンプルトンは、ヒエラルキーの必要性と、人々への接し方は別の問題であるとして、すばらしい主張を展開している。

 複雑な問題に対処するために必要となるヒエラルキーと、人々に払うべき敬意とを決して混同してはならない。そこで認識にズレが生じる組織が多く、敬意とヒエラルキーを取り違え、ヒエラルキーの下位にいる人にはさほど敬意を払わなくてもよく、上位にいる人にはちゃんと敬意を払わなければならないと考えるようになる。ヒエラルキーは複雑な問題に対処するための必要悪だが、個々人に払うべき敬意とはまったく関係ない。

 もしあなたがチームや組織で権力を握っているのであれば、2002年の映画『スパイダーマン』で、ティーンエイジャーのピーター・パーカーにベンおじさんが贈ったアドバイス――「大いなる力には、大いなる責任が伴う」――を心に留めておいてほしい。

 地位や専門性、評価により得た影響力は、ヒエラルキーを操り、権力による負の側面を緩和・撲滅し、人々が円滑に業務を進められ、敬意を払われていると実感できるようにするために使ってもらいたい。そうすることで、自分の摩擦円錐が他者にどのような影響を及ぼしているかを理解できる。そして、他者に敬意を払うべきときはいつか、自分の意思を通すべきときはいつかを知ることもできる。