
写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
世界的投資家ウォーレン・バフェット氏が株を保有していることでも知られる日本の「総合商社」。中でも5大商社と言われる、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅は創業100年を超える長寿企業だが、その特徴と強みとは何なのか。『 商社ビジネス』(佐野智弘著/クロスメディア・パブリッシング)から一部を抜粋・再編集し、日本独自の業界である総合商社のビジネスに迫る。
伊藤忠商事や三井物産の事業を通じて、総合商社が展開する食料ビジネスのモデルを紹介するとともに、三井物産と住友商事の取り組みを元に、資源・エネルギービジネスにおける総合商社の強みを解説する。
本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2025年12月5日)※内容は掲載当時のもの
食料ビジネス

『 商社ビジネス 』(クロスメディア・パブリッシング)
総合商社の食料ビジネスは、農業生産から加工・物流・販売までをグローバルに展開し、食のバリューチェーン全体を統合的に管理しています。川上では穀物の安定供給体制を構築し、川中では食品メーカーと連携して付加価値を創出。独自の物流網により効率化と食品ロス削減を実現しています。新興国市場での商品供給や地域経済への貢献、AI・IoTを活用した生産性向上や環境配慮型商品の開発にも注力し、持続可能な食料供給を目指しています。
事業投資を通じて現地パートナーと協業し、技術移転や雇用創出を促進。食の安全・安心を確保しながら、世界の食料課題の解決に貢献しています。本節では、伊藤忠商事のDOLE事業と三井物産の動物性タンパク質事業を紹介します。
伊藤忠商事は2013年、米国Dole Food Companyから約17億ドルでアジアの青果物事業とグローバル加工食品事業を買収し、商社における最大規模のM&AでDoleビジネスに本格参入しました。これにより、世界最大級の果物販売網と、主に北米市場での加工食品事業を獲得し、川上から川下までを網羅するグローバルサプライチェーンを構築しました。
買収後は収益改善と持続可能性の両立を目指し、人材派遣や生産拠点の多角化、不採算事業の整理を推進。センサーやドローン、気象データを活用したスマート農業により、収量予測や最適収穫時期の判断精度を高め、省力化と収益安定化を実現しています。
また、西アフリカのシエラレオネではパイナップル事業を展開し、雇用創出と経済発展に貢献。フィリピンでは残渣を活用したバイオガス発電に取り組み、環境負荷軽減を図っています。Dole事業を通じて、農業の高度化、環境保全、地域共生を推進しています。
三井物産は鶏肉とエビを軸に動物性タンパク質のグローバル戦略を展開。鶏肉事業ではプライフーズ株式会社が中核となり、育種から販売までを一貫する「完全インテグレーションモデル」を確立。食品残渣の飼料化や太陽光発電導入など、環境負荷低減にも取り組んでいます。
このモデルは海外にも展開され、モロッコのZalar社(2018年)、エジプトのWadi Poultry(2023年)、インドのSneha Farms(2024年)に出資。技術移転を通じて生産性と衛生水準の向上を図っています。
エビ事業では、2019年にベトナムのミンフー水産に出資し、抗生物質不使用や水質再利用などの持続可能な養殖を推進。自社開発の持続可能な養殖技術「MPBiO」やAIによる水質モニタリング、成育予測などDXを活用。2024年にはエクアドルのIPSPにも出資し、多拠点・高付加価値型の供給網を構築しています。
総合商社の食料ビジネスは、世界の食の未来を支えるインフラとして進化を続けています。グローバルな視点と地域密着、そして持続可能性への配慮を通じて、安定供給と社会課題の解決に貢献する役割は今後さらに重要になるでしょう。
資源・エネルギービジネス
総合商社の資源・エネルギー事業は、資源権益の取得・開発から輸送、販売、トレーディングまでを一貫して手がけるのが特徴です。原油、天然ガス、石炭、鉄鉱石、非鉄金属などの一次資源に加え、再生可能エネルギーや水素・アンモニアといった次世代エネルギーにも注力。資源の安定供給と脱炭素社会の両立、地域社会や環境への配慮を重視した事業運営が、総合商社の強みです。
本節では、三井物産のUAEでのアンモニア事業と、住友商事のマダガスカルのニッケル事業を紹介します。
三井物産はアラブ首長国連邦(UAE)のルワイスにおいて、年間100万トン規模のクリーンアンモニア製造プラントを建設中で、2027年の操業開始を目指しています。本事業は、アブダビ国営石油会社(ADNOC)管下の企業を含む4社の共同プロジェクトで、初期段階では天然ガス由来の低炭素アンモニアを製造し、2030年までにCO2回収・貯留(CCS)設備を導入することで、クリーンアンモニアへの移行を図ります。
このプロジェクトの背景には、三井物産とADNOCの50年以上にわたる協業関係があります。1970年代のLNG事業を皮切りに、両社は長年にわたり信頼関係を築いてきました。さらに三井物産は、日本のアンモニア輸入量の約60%を取り扱うなど、同分野で圧倒的な実績を誇ります。
同じルワイス地区では、年間900万トン規模の新LNGプラント建設にも参画しており、ADNOCとの連携のもと、アジア市場を中心とした安定供給体制の構築を進めています。これらの取り組みは、三井物産が持つグローバルなネットワークとエネルギー分野での専門性を活かした、脱炭素社会への貢献の象徴といえます。
住友商事はマダガスカルで、世界最大級のニッケル生産事業「アンバトビープロジェクト」を展開。鉱山開発から精錬までを同国内で一貫して行う稀有な事業で、2005年に参画し、2012年に生産を開始しました。主力製品のニッケルはステンレス鋼や電気自動車用電池に使用され、副産物としてコバルトや硫酸アンモニウムも製造。マダガスカルの基幹産業となっています。
現地には約1万人が従事し、その9割がマダガスカル人。教育・医療支援、インフラ整備、環境対策にも積極的です。一方で、操業開始以降、設備不具合やインフラ老朽化、稼働率の低迷など複合的な課題に直面。パイプライン破損による長期停止や運営体制の見直しもあり、経営的に厳しい局面が続いています。
住友商事は生産回復を最優先課題としつつ、出資比率や事業形態の見直しも含めて慎重に検討中です。資源の安定供給と地域社会との共生を両立する持続可能な開発モデルの実現に向け、事業再建に取り組んでいます。
気候変動や資源制約といった地球規模の課題に直面する中、資源・エネルギー分野における総合商社の役割はますます重要です。技術革新と国際連携を通じて、持続可能な供給体制と社会的価値の創出を両立する挑戦こそが、総合商社の真の競争力といえるでしょう。
1973年千葉県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1997年伊藤忠商事に入社。以来22年間、採用・評価・育成等幅広く人事業務に従事し、うち約7年間ニューヨークに駐在した。2019年9月に株式会社ザ・ビヨンドを設立し、商社で活躍することを目指す大学生の成長支援「THE BEYOND 成長を楽しもう」をスタート。同年、商社就活カレッジを開講し、これまで延べ1000人以上の商社志望学生のES添削や模擬面接を行っている。チャンネル登録者数約10万人を誇るYouTubeチャンネル「トップ就活チャンネル(トプシュー)」の顧問を務めている。著書に『商社ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)がある。