
写真提供:ロイター/日刊工業新聞/共同通信イメージズ
ゲームはもはや、単なる娯楽ではない。世界市場は約30兆円規模に拡大し、日本でも主要エンタメ企業の時価総額が自動車産業を上回るなど、「基幹産業」として存在感を強めている。『ゲームビジネス』(岡安学著/クロスメディア・パブリッシング)から一部を抜粋・再編集。全3回にわたり、成長を続けるゲーム産業の構造と、ヒットや強い知的財産(IP)を生み出す仕組みに迫る。
かつてヒットしたゲームIPが、時を経て再び動き出す例が相次いでいる。メーカー各社の取り組みを手がかりに、ゲーム業界が実践してきたIP再生戦略の狙いに迫る。
本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2026年1月9日)※内容は掲載当時のもの
なぜメーカーの枠を超えたキャラクターの共演が実現するのか

『 ゲームビジネス 』(クロスメディア・パブリッシング)
みなさんは「アベンジャーズ」という映画をご存じでしょうか。
この映画では、アメコミのスーパーヒーローたちが夢の共演を果たしています。オールスターキャストの作品は日本のアニメ作品などにも見かけますが、そのほとんどの権利元が同じであり、まったく違う映画会社のキャラクターが共演することはめったにありません。
しかし、ゲーム業界であれば、まったく別のゲームメーカーのキャラクターが共演することが少なくありません。
最近話題になった例で言えば、カプコンの『ストリートファイター6』に、SNKの『餓狼伝説』シリーズのキャラクター、テリー・ボガードと不知火舞が登場しています。
この2社によるコラボレーションは、1999年に始まった『SNK VS. CAPCOM』シリーズに遡ります。この流れを受けて、2025年にリリースされた『餓狼伝説 City of the Wolves』に、『ストリートファイター』シリーズから、ケンと春麗(チュン・リー)の参戦も発表されています。
ゲーム業界では、ゲームシステムに関わる特許などでクロスライセンス契約をおこなう慣例があり、この仕組みを使って他社のIPを使うことが多く見受けられます。この慣例があることで、他のメディアと比べて、コラボレーションを実現しやすい環境にあると言えるでしょう。
その結果、一方的なIPの貸し出しもおこなわれ、キャラクターがゲスト参戦することも見受けられます。
たとえば、バンダイナムコゲームスの『鉄拳7』には、『餓狼伝説』シリーズからギース・ハワードが、『ストリートファイター』シリーズから豪鬼が、『ファイナルファンタジーXV』からノクティスが参戦していました。
任天堂の『大乱闘スマッシュブラザーズ スペシャル(以下、スマブラ)』では、『鉄拳』シリーズからカズヤ、『ストリートファイター』シリーズからリュウとケン、『ファイナルファンタジーⅦ』からセフィロス、『キングダムハーツ』からソラ、『餓狼伝説』シリーズからテリー、『ペルソナ5』からジョーカーなどが参戦しています。他にも多数参戦しており、まさに人気ゲームのキャラクターが大乱闘するタイトルとなっているわけです。
他社のIPを使うことで、キャラクターに大きな幅を見せ、そのタイトルのファンからの支持も得やすくなります。
さらにキャラクターを貸し出した側としても、違うタイトルからキャラクターを通じて、元タイトルを知ってもらい、そこから流入してくれることも期待できます。
特に『スマブラ』はプレイヤーの年齢層が幅広く、小さな子どもからプレイしていることが多くなっています。そのため、リュウやケンは『ストリートファイター』シリーズをプレイする前から知っており、『スマブラ』から『ストリートファイター』シリーズをプレイし始める人も少なくありません。
キャラクターのストーリーや背景が異なっていても、ゲームとしてのシステムに組み込むことができれば、違和感なく楽しめてしまうことは、ゲームならではの特徴だと言えるでしょう。
IPの掘り起こしという戦略
今でこそ、ゲーム業界はIPを重視する傾向にありますが、以前は「使い捨て」というほどではないにせよ、あまり重視していませんでした。
第2回でも言及しましたが、セガはソニック・ザ・ヘッジホッグのIPの力を見誤り、北米でのセガサターンの販売がメガドライブにおよばなかったと言われています。もちろん、それだけが原因ではないでしょうが、IPがハードやソフトの人気を引き上げることは往々にしてあります。そのこともあり、昨今では各メーカーが古いIPを掘り起こし、IPの価値を復活させようとする気配があります。
2015年4月にバンダイナムコが「カタログIPオープン化プロジェクト」を発足させました。これは『パックマン』や『ギャラクシアン』など17タイトルのIPを日本国内のクリエイターに開放し、デジタルコンテンツでの活用を目的とした企画でした。キャラクターのみならず、ストーリーや音楽、設定などを利用し二次創作が可能になるものです。
クリエイターにとっては、有名IPを使える利点があり、IPホルダーとしては新規コンテンツがリリースされることで、IPの知名度強化や延命がおこなわれるわけです。
カタログIPオープン化プロジェクトのIPの使用期限は2年間のみ(最終的には延期され4年間)でしたが、さまざまなタイトルがリリースされました。ゲームエンジンでライブラリが使えるようになった上、キャラクターや音楽まで使用できるこのプロジェクトは、ゲーム開発のハードルを大きく下げたと言えます。
2021年にはセガゲームスが休眠中を含むIPを精査し、リメイク、リマスター、リブートを展開する方針を発表しました。
『クレイジータクシー』や『ナイツ』『ジェットセットラジオ』などは、一世を風靡したタイトルでしたが、今では当時プレイしたユーザーの一部の記憶にしか残っていない状態です。これらを復活させることで、IPの資産を活用していくわけです。2021年には『バーチャファイター5』をeスポーツ仕様にリメイクした『バーチャファイター eスポーツ』、2025年にはそれにバランス調整を加えた『バーチャファイター5 レヴォ』を発売しました。
たしかにIPを重視しすぎると、続編だらけになるという側面もあります。それでも一本ゲームをつくるだけでは一過性のものになりかねないIPを活用することが、メーカーにとっても、ファンにとっても重要であることは間違いありません。特にキャラクターであれば、継続して使用しても、ゲーム内容はまったく違うものを出すことができます。そのことはすでにIPの活用で成功を収めている任天堂が示しています。
続編、スピンオフ、ゲスト出演、コラボなど、さまざまな展開はあり得るので、メーカーが自社IPを見直すことは有効な戦略だと言えるでしょう。
ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。