出所:共同通信イメージズ出所:共同通信イメージズ

 2025年7~9月期決算で四半期として過去最高の売上高、営業利益を記録したソニーグループ。かつては「ビジョナリー企業」と称されながら業績低迷にあえぐ時期もあったが、その後の構造改革を経て復活を果たした。一方で、ソニーと同様にビジョナリー企業と評価されたものの成長が続かず衰退した企業もある。両社を隔てるものは何か──。2024年9月に書籍『企業が成長し続けるための7つのステップ パーパスの浸透と実践』(宣伝会議)を出版したエスエムオーCEOの齊藤三希子氏に、企業の経営意思決定を左右するパーパスの考え方、成長が続かない企業に見られる特徴について聞いた。

本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2026年3月11日)※内容は掲載当時のもの

パーパスは正しく使われないと「意味をなさない」

──著書『企業が成長し続けるための7つのステップ パーパスの浸透と実践』では、パーパスの策定と浸透にかかわる事例や実践的アプローチについて解説しています。なぜ、このテーマを選んだのでしょうか。

齊藤三希子氏(以下敬称略) 私がCEOを務めるエスエムオーでは毎年パーパス策定企業を調査しています。その調査では、プライム市場に上場している約1600社の企業のうち、2025年のパーパス策定済み企業は337社と、2022年の91社に比べ大幅に増加していることが分かりました。

 この数年間でパーパス経営やパーパス・ブランディングに注目し、実践する企業が増えていることをうれしく思います。その一方で、本当にパーパスが正しく使われているのか、疑問を持ちました。

「他社が策定しているから」「株主に指摘されたから」といった外的な要因がきっかけとなり、パーパスを策定することはあるかもしれません。しかし、せっかくパーパスを策定しても、正しく使われないと意味をなさず、「絵に描いた餅」に終わってしまいます。

 そこでパーパスの策定だけでなく、浸透や実践といった細かい内容に踏み込んだ本を書くことを決めました。

 パーパスは近年、バズワードのように取り扱われていますが、よく見てみると「これは本来のパーパスとは意味が異なるのではないか」と感じるものも少なくありません。せっかくパーパスを策定するのであれば、正しく使ってほしいという思いが根底にあります。

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パーパス・ブランディングでは利益ではなく「存在意義」で判断し、行動する

──著書では、パーパスをもとに判断や課題解決を進める「パーパスブランディング」について解説しています。パーパス・ブランディングとは、どのような取り組みを指すのでしょうか。

齊藤 究極的には、存在理由や存在意義を意味する「パーパス」をベースに全てを判断し、行動することを指します。

 事業活動を進めていく中で、さまざまな判断が求められるシーンがあります。パーパス・ブランディングでは、そのときに「商品、サービスが売れるかどうか」といった利益目線の判断軸ではなく、「自分たちは何のためにあるのか」という明確な存在理由をもとに、判断・行動する状態を目指します。
 
 ブランディングというと「見栄えを良くする」「ロゴを変える」といった見た目を中心とした企業価値の向上をイメージされるかもしれません。しかし、パーパス・ブランディングは会社の中心となる考え方としてパーパスを定め、それをもとに判断・行動することで企業価値を向上させる、という狙いが根幹にあります。

──経営の意思決定だけでなく、現場の業務をはじめ、さまざまなシーンにおける判断軸を定めるのですね。

齊藤 そのとおりです。「迷ったら一度パーパスに立ち返って判断をする」ということです。

 ある企業の社長から「マニュアルに頼らずに、個人が自律した判断ができるようなパーパスを取り入れたい」「経営から現場まで一気通貫で同じ価値観で判断する組織をつくりたい」とご相談を受けたことがあります。その企業では、あらゆる業務の進め方をマニュアル化していたものの、数百ページに及ぶマニュアルだったため、誰も見向きもしない状態だったのです。

 このように多くの場合、マニュアルは現場の意思決定に関与しづらいものですが、パーパスを組織に浸透させれば、自律する組織をつくることも十分可能です。

不確実な時代に「ビジョン」よりもパーパスが問われる理由

──著書では、パーパスブランディングの必要性が叫ばれる背景として「かつてビジョナリーな企業と評された企業の失墜が関係している」と述べています。象徴的な事例として、どのような企業がありますか。
 
齊藤 一つ注意していただきたいのは、ビジョナリー経営が悪いというわけではありません。ビジョンを掲げ、それに向かって走っていくことは価値がありますし、成功しているビジョナリー企業も多くあります。

 しかし今はコロナ禍や戦争など、先が見えない時代です。つまり「ビジョンに基づいて中長期計画を出しても実現できるか分からない」時代であるともいえます。

 将来を見据えたビジョンも大切ですが、「なぜ、私たちは存在しているのか」という今に注目するパーパスが注目されているのも、そうした時代背景があると考えています。

 ビジョナリー経営に話を戻すと、ビジョンは掲げて終わりではなく、実現のために切磋琢磨(せっさたくま)を続けていくことが必要です。その中で時代のさまざまな変化に対応しきれず失墜してしまった企業が多かったということです。

 例えば、米モトローラは市場に追いつけず、スマートフォンの登場によって衰退しました。米ボーイングは安全よりも利益を優先した結果、2件の不幸な事故を招いてしまいました。

 一方、ソニーは停滞していた時期もありますが、そこから「私たちは何のために存在しているのか」という問いを深めていきました。自分たちのアイデンティティーやパーパスに注目した結果、業績が回復し、成長軌道に乗ることができています。

 かつてビジョナリーと称された企業には「失墜しやすい可能性をはらむ共通項」が一つありました。それは、それらの企業が全て上場していた、ということです。彼らが衰退したのは、利益というものさしで成功を測っていたため、顧客やパートナーを利益優先で都合の良いように動かしていたからだと考えています。