出所:共同通信イメージズ生成AI市場の拡大を追い風に、村田製作所が快走している。AIサーバー・データセンター向け部品の需要急増を受け、2026年7月には2027年3月期の純利益予想を前期比44%増へ上方修正し、過去最高益を見込む。この競争力を生む要因について「顧客や従業員についての価値観を経営の中核に据えた、同社の一貫した考え方がある」と語るのは、2026年6月に著書『「働きやすさ」を超える組織と人のエンゲージメント 経営主導で実行力を高める』(日本能率協会マネジメントセンター)を出版した、コーン・フェリー・ジャパンのアソシエイトクライアントパートナー岡部雅仁氏だ。従業員の力を顧客価値と経営成果に結び付ける経営の要諦について、同氏に聞いた。
エンゲージメントを高めても成果が出ない理由
──著書『「働きやすさ」を超える組織と人のエンゲージメント』では、従業員エンゲージメント指標と財務指標を比較し、日本企業が抱える課題を分析しています。日本企業の経営には、どのような課題がありますか。
岡部雅仁氏(以下敬称略) 最大の課題は、従業員一人一人の意欲や能力を経営成果へ結び付ける仕組みが十分に機能していないことです。
海外企業と比べると、日本企業は収益性や成長性、資本効率だけでなく、エンゲージメント水準も総じて低い傾向があります。ただし、それは日本人の意欲が低いという意味ではありません。真面目で勤勉な人材は多く、その力を経営成果へつなげる戦略や組織の構造に課題があります。
──なぜ、その仕組みづくりが進まないのでしょうか。
岡部 多くの企業では、従業員エンゲージメントを人事部門の施策として捉えているためです。その結果、「働きやすさ」や福利厚生の充実といった取り組みにとどまり、経営戦略との結び付きが弱くなります。
本来、エンゲージメントは事業戦略を実行する組織の力そのものを示す指標です。だからこそ、人事施策ではなく経営戦略の一部として位置付け、経営陣が主体となって取り組むことが重要だと考えています。
村田製作所に学ぶ、顧客価値を生むための一貫した経営
──著書では、経営方針の主軸に顧客や従業員についての価値観を据えた村田製作所の事例を紹介しています。同社の経営には、どのような考え方の特徴がみられるのでしょうか。
岡部 最も重要だと感じているのは、村田製作所が顧客や従業員についての価値観を個別の施策ではなく「経営の中心に据える」という判断を、2000年代中ごろという早いタイミングで行ったことです。
同社は現在約8万人の従業員を抱え、積層セラミックコンデンサーでは世界トップクラスのシェアを維持しています。また、この30年ほどでM&Aも含めた大きな事業拡大を進めてきました。その過程では組織的なゆがみや課題も生じたと聞いていますが、それを制度や個別部門の問題として片付けるのではなく、CSとESの両方を経営戦略の中核に位置付けました。
同社では、CSを「お客様が認めてくださる価値を創造し、提供し続けること」、ESを「仕事を通じて従業員一人ひとりがやりがいを感じ、成長し続けること」と定義しています。
そして現在でも、こうした考え方は統合報告書で明確に示されています。
同社の強みは、積層セラミックコンデンサーに代表される高精度・高付加価値製品にあります。材料開発から製品化までを一貫して手掛け、中核技術をブラックボックス化することで、競合他社が模倣しにくい競争優位性を築いています。
こうした高度なものづくりを支えているのは、製造ラインだけではありません。現場で働く従業員や技術者が密に連携しながら知恵を出し合い、高品質な製品を生み出しています。だからこそ、従業員への継続的な投資が顧客価値の向上につながるという考え方を、経営の一貫した指針として位置付けているのです。
顧客体験と従業員体験を両輪で高める経営
──著書では、日本企業の経営層が取り組むべき課題の一つとして「顧客体験(CX)と従業員体験(EX)を同時に高めること」を挙げています。これはどのような考え方ですか。
岡部 著書では、日本企業の経営層が取り組むべき課題として、①経営のかじ取りとスピード、②顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の両輪への投資、③業務基盤の改革、④自発性を高める人事制度、⑤事業成果の透明な分配の5つを挙げています。
その中でも重要なのが、CXとEXを両輪で高めるという考え方です。メーカーでは「お客さま第一」「品質第一」を掲げる一方、その実現が従業員の疲弊や長時間労働の上に成り立っているケースがあります。これでは持続的な競争力は維持できません。
一方で、働き方改革が進み、従業員体験ばかりを重視した結果、エンゲージメント向上が事業や顧客価値と切り離されてしまうケースもあります。これでは企業価値の向上には結び付きません。
だからこそ、CXとEXは別々ではなく、一体で捉える必要があります。
──CXとEXを両立させるためには、どのような組織体制が求められるのでしょうか。
岡部 CEOとCHROが緊密に連携し、営業や製造などの事業部門と協働することが重要です。例えば、製造設備への投資は通常、生産性や品質向上を目的に議論されます。しかし、従業員の就労環境を改善するという視点も加えれば、EXの向上を通じてCXも高める投資になります。
こうした視点を経営判断に組み込むことが、顧客価値と企業価値を同時に高めることにつながるのです。
コーン・フェリー・ジャパン/アソシエイト クライアント パートナー。同志社大学商学部卒業。PwCコンサルティング、リクルートを経て現職。コーン・フェリーのデジタルソリューションを用いた組織・人事変革プロジェクトに多数従事し、特に社員規模数千~数万人規模のグローバル展開する大手日本企業の従業員エンゲージメント調査・向上プロジェクトの実績が豊富。中国(上海・北京)、シンガポール、マレーシアに10年の勤務・在住経験があり、日本企業の従業員エンゲージメントや組織風土向上活動をグローバルで支援。著書に『Future of Work 人と組織の論点』(日経BP/日本経済新聞出版)、『VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件』(日本経済新聞出版)。
