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日本企業によるグローバル企業の買収が年々活発化している。だが、国内ビジネスを中心に成長してきた企業が海外企業を買収した場合、経営統合のプロセスでつまずくケースが後を絶たない。そんな中、買収したグローバル企業の仕組みに自らを適応させるという独自の道を切り開いたのが日本たばこ産業(JT)だ。『 AFTER M&A』(岩下仁著/BOW&PARTNERS)から一部を抜粋。同社の「逆転型統合」の成功例に迫る。
英語も話せず、海外事業は外国人任せだったJT。海外で通用する日本人マネジャーをどう育成しようとしているのか。
本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2026年3月11日)※内容は掲載当時のもの
買収先からの学び(セールス&マーケティング)

『 AFTER M&A 』(BOW&PARTNERS)
英国ギャラハー買収から数年後、2009年には、JTIの海外売上がたばこ事業全体のほぼ半分を占めるようになった。これは海外売上に関しては、いわゆるグローバル企業といえる割合である。国内専用企業から出発し、買収により海外売上が2〜3割に達し、それがさらに成長して、ついには国内売上を上回る規模になったのである。
当時のJTは、二つの大型買収を終え、表向きは、名だたる日本発グローバル企業。しかしながら、内情は全く逆だった。
担当者によれば、JT国内事業は、どう見ても国内専業企業だったという。英語を話せないのはもちろん、終身雇用と先輩後輩の関係、はたまた入社年次による同窓会、そして中途入社社員がほとんどいなかったことなど、制度、考え方から知識、行動まで、どう見てもグローバル企業ではなかったと。
JTの戦略立案から実施、たばこブランド、そして組織構造など、JTとJTIは切り離された別の生き物だった。買収先のJTIは、JTとは全く切り離されて運営されていたのだ。
特にセールスマーケティング機能では、それが顕著だった。JTとは、日本的経営でもある、ジェネラリストを志向する組織だ。セールス&マーケティングでは、両機能は不可避の関係であり、現場のセールスがわからないと、マーケティングはできないとの考えが強かった。
したがって、新入社員は、まずは現場を見ること、つまり、セールス現場を見ることで、まずは販売事業所に着任するのだ。そして、セールスで実績を上げてからはじめて、その上の頭脳でもあるマーケティング部隊への異動が可能となる。いわばマーケティングはセールスの上方にある組織の位置付けだった。
またマーケティング部内でも、各機能の役割に明確な区分けがなかった。ブランドごとの担当もあるのだが、ブランドを企画することとそのブランドの販促をすることも、仕事のうちだった。またブランド内の若手は、どちらかといえばマネージャーのサポートの意味合いが強く、自身のプロジェクトがなかなか持ちにくい環境にあった。
さらに、ジョブローテーションは頻繁に起こり、いくつか異なる仕事を経験して、マネジメントのスキルを身につけていくことが期待された。もちろん新入社員から退職までJTで勤め上げる終身雇用が圧倒的多数の状況だった。
対して、JTIのセールス&マーケティングは、スペシャリスト志向の組織だ。
セールス&マーケティングは、おもに三つの階層(Tiers)に分かれていた。
Tier 1としてブランド企画、おもにブランドのコンセプトから価格戦略、イメージや顧客戦略を見る部隊。
Tier 2として、販促プロモーション、おもに販売促進をかけるための販促ツールやプロモーションを企画し実行する専門部隊。
Tier 3として、直接各チャネルや個店を回り、棚や在庫のチェックなど、店主やバイヤーとの関係を深めるセールス部隊。
JTIでは各Tierでスペシャリストとしてキャリアを積んでいくので、他の階層の機能を学ぶことはない。また中途採用が中心のため、基本は即戦力として使える人財しか採用しない。パフォーマンスが悪ければ、数回の警告とデベロップメントプランをつくらされ、達成できなければ解雇の憂き目にもあう。JTIは、スイスのジュネーブにあったが、ハイヤー&ファイヤー(Hire & Fire)を軸とし解雇も辞さない米国企業の人事施策をとっていた。
当時のJTの担当者は、グローバル企業とは言われるが、人財が全く追いついていないことに強い危機感を覚えていた。
これは当時、破竹の勢いで成長するJTI海外事業を見て、このままでは外国人部隊にすべて海外事業を奪われてしまう、そうして日本人の活躍の場所がなくなってしまうだろう、という強い危機感だったと、当時を振り返って、担当者は語った。
海外事業はすべてJTIが仕切っていて、日本人の出番はなかった。すべての海外ビジネスはJTI。日本人はせこせこと国内で活動するだけ。経営陣はすべてヨーロッパ人。これではあまりにも若手の日本人がかわいそうだった。
彼は起こりつつある未来、2021年の逆転型経営統合をそのときすでに見越していた。
そうしたなか、日本人マネージャーの育成として、若手の海外出向プログラムが企画されたという。
もちろん、そのためには大きな支出が伴う。一人当たり2年間ほどJTIに出向させ、かかるコストはすべてJTが持つのだ。それは家族のサポートから保険、引っ越しから、それに伴う語学を学ぶ費用まで、下手をすれば一人頭、1億円弱ほどかかるともいう。
しかしながら、このJTの組織的アイデンティティを日本に寄せる、日本人DAプログラムは、多くの経営陣の賛同を得て、難なく承認された。
これは「内なるグローバル化」施策とも呼ばれ、目的は、いかにしてJTIから知見を得るか、の一点だった。
専門は企業の国際化、企業変革、リーダーシップ。経営コンサルタントとして、数々の大手日本企業のプロジェクトに携わる。その後、英国Cardiff Business School, Ph.D博士号(専攻は組織論とマネジメント;日系多国籍企業のグローバル化)。スペインIE Business School, International MBA修士号(専攻は国際経営)。現職に至る。