「マイルドセブン」から「メビウス」への名称変更を発表する日本たばこ産業の小泉光臣社長(当時、2012年)
写真提供:共同通信社

 日本企業によるグローバル企業の買収が年々活発化している。だが、国内ビジネスを中心に成長してきた企業が海外企業を買収した場合、経営統合のプロセスでつまずくケースが後を絶たない。そんな中、買収したグローバル企業の仕組みに自らを適応させるという独自の道を切り開いたのが日本たばこ産業(JT)だ。『 AFTER M&A』(岩下仁著/BOW&PARTNERS)から一部を抜粋。同社の「逆転型統合」の成功例に迫る。

 海外で苦戦を強いられた「マイルドセブン」。ブランド刷新で見えてきた全社的な課題とは?

本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2026年3月16日)※内容は掲載当時のもの

マイルドセブンの刷新

『 AFTER M&A 』(BOW&PARTNERS)

 二つの大型買収を終え、JTは既存のグローバルブランドを手に入れた。すなわち、ウィンストンやキャメル(RJRI)、またはベンソン&ヘッジスやシルクカット(ギャラハー)などである。これらブランドの戦略は、買収先でもあるJTIがそのままグローバル本社として統括することになる。

「任せる経営」においては、日本国内は、そのグローバルブランドを受け入れる側であり、買収先のJTIのグローバルブランド戦略そのものに関わるわけではなかった。日本はそれらのブランドの卸先のマーケットの一つであるだけだった。

 ただし、例外が一つあった。JT発のブランドであり、かつGFB(グローバル・フラッグシップ・ブランド)でもあるマイルドセブンだ。爆発的な成長を続けるJTIブランドとは対照的に、マイルドセブンはグローバルで伸び悩んでいた。

 これはひとえに規制強化による“マイルド”の用語が形容詞として、たばこの名前としては、禁止になった事情が大きく影響している。

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 これは特に北米やヨーロッパ諸国などの先進国を中心に起こった一連の規制強化の一環で、2005年に発行された、世界保健機関(WHO)による、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC:Framework Convention on Tobacco Control)が発端だ。

 前述のように、たばこの消費が健康に与える悪影響を軽減することを目的とした国際条約で、具体的には、たばこの広告や販売促進の禁止や制限、たばこの包装やラベルに関する表示、受動喫煙の防止、未成年者喫煙の禁止措置の実施、という包括的な内容だ。

 担当者は語る。

一番の問題は形容的表現の禁止という条項でした。要はマイルドセブンというブランド名称に不安があったのです。日本側のマジョリティーの人たちは強硬態勢で、そもそもマイルドセブンっていうのはブランド名であって確固とした商標権を持ってる、(各国)政府からとやかく言われるものではない、グローバルに問題はないと言い切っていました。しかし、個々のローカル(他国)では役所からいっぱい言われるわけです。

 このような世界レベルでの規制強化とともに、当時のマイルドセブンの課題も浮き彫りになってくる。さまざまな施策を打ってきたものの、マイルドセブン自体がいまだグローバルブランドとはなっていなかった。日本国内でも、マイルドセブンの顧客は高齢化しており、若者は離れていた。こうした規制環境の変化と顧客の高齢化によって、ブランド刷新は、JT日本が主導権を取って、率先して取り掛かるべき緊急課題となった。「マイルドセブン刷新プロジェクト」の誕生である。

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 このプロジェクトは、経営陣からの指示やトップダウンの命令が発端ではない点に注目したい。当時のJTブランド担当が自ら課題を定義し、提案したプロジェクトだったのだ。そして、それまでの買収先への協業や支援とは根本的に異なり、JT日本側が買収先のリソース、販売網や生産機能を活用して行う、日本発ブランドのグローバル刷新である。

【統合プロセス成功の法則㉑】
買収先企業の販売網、生産機能などのリソースを活用し、 自社の製品やサービスのグローバル展開への機会を探る。

 かくして、メビウスとブランド名を改めたマイルドセブンの刷新プロジェクトが進められた。始めてすぐに、担当者はJTとJTIのリソースと機能が大きく重なっていることに気づいた。それがブランド戦略を見るマーケティングエージェンシー、商品広告やデザインを担当するクリエイティブエージェンシーだった。

 と同時に、それらだけの課題でもないことが、鮮明になっていった。これは実際の製品を作る製造部門から包装などの原材料ベンダーまで、全社的な範囲まで広がった。

 JTIではなく、JTが主導権を握るマイルドセブンの刷新プロジェクトの結果、それまでのミラーリング活動では見えてこなかった、両社の非効率な領域、逆に言えば、コスト削減と効率化、相乗効果が狙える分野が多く存在することが明らかになっていったのである。