
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長と栗山英樹氏
写真提供:共同通信社
強いリーダー像が求められる昨今、組織をどう束ね、逆境をどう乗り越えるかは多くの経営者にとって共通の課題である。侍ジャパンを率いた栗山英樹氏がさまざまな経営トップと対話し、決断力や覚悟、組織づくりの本質を掘り下げた『 栗山英樹がトップ経営者から引き出した逆境を突破するための金言』(栗山英樹著/NHK出版)から内容の一部を抜粋。
人はいかに成長するのか。栗山英樹氏とファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が語り合った、人材と組織づくりの本質とは?
本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2026年3月16日)※内容は掲載当時のもの
リーダーを支えたことば

『 栗山英樹がトップ経営者から引き出した逆境を突破するための金言 』(NHK出版)
栗山 苦しいときに肝に銘じてきた言葉として「希望を持って生きる」とお書きいただきました。具体的にどういうことなんでしょうか?
柳井 多くの場合、何かに困ったときに、困ったっていうことばっかり気にするんですよ。うまくいかないことばかりを考えてしまう。でも希望を持たないといけないですよね。自分に自分で期待するっていう。そういうことが本当は必要なんじゃないんですかね。
僕はあんまり商売に向いてないんじゃないかと思ってたんですよ。できれば一生仕事せずに暮らせる方法はないだろうかみたいな大学生だったので。そういうのが実家に帰って商売をする中でいろいろな気付きみたいなことを社員に言うんですよ。でも結局何にもできないくせしていろいろ言うんで、先輩社員が嫌になって「この若旦那何言ってるのか、こんな人についていけない」というふうに思ったんじゃないですかね、栗山さんの「窮すれば変ず」ですよ。窮したわけです。
栗山 僕が書いたのはこのあとに「変ずれば通ず……」って続いていく教えです。困ること苦しいことが多かったもんですから、本当に困ったときにちょっと自分が変われる感じがするんですよね。監督をやっていると、この試合どうにもならないなという展開はもちろんあるんですけど、自分が諦めるとみんなに伝わっちゃうので、絶対何か方法がある、可能性があるっていうふうに思うようにしています。苦しくなればなるほど何か発想が生まれるというか、変われるという経験をしたものですから、試合中にいつも心に留めておくようにしていますね。
柳井 ピンチこそチャンスだからそこで変われるんですよ。それでやってみたら結構いろんなことができるんですよね、自分でも。僕は自分でできない、向いていないって思っていたんですけど、結構向いてるなって思いはじめて……。何でもそうですけど自分でやってみたら面白くなりますよね。そういうことなんじゃないですか。
栗山 やりながら気が付いていくというか、意外と人っていろんなことができるから希望を持ってやったほうがいいぞということなんですね。
いい人材を見極めるには
栗山 いい人材を見極めるコツはなんでしょうか?
柳井 あったら教えてもらいたい。ハハハハ……! 栗山さんはどうやって見極めます? 反対にお聞きしたいですけどね。
栗山 僕もこれが難しくて……。野球の場合は、まず人柄というか心の部分と、それから持っている身体能力と技術の部分。この3パターンから一応、どういうのを持ってるのかなとは見るんですけれど、意外とそれで見極めたつもりでも……。
柳井 そのとおりにはいかないでしょ。僕もうまくいかないですよ。その人を面接する、あるいは最初一緒に仕事をするでしょ。でもずっと一緒に仕事をしていっても思ったとおりには育成できないですよね、なかなか。一人一人個性が違うから。だからいい人材を見極めるコツっていうのはその人が結局自分として何をやりたいと思っているかということと、その人の能力を見るっていうことなんじゃないんですかね。
栗山 2023年に塚越(大介)さんをユニクロの新社長に任命されました。どういう特徴から決められたんでしょうか。
柳井 社長に一番向いてる人を社長にするっていうことでしょうか。それから、みんなの支えがないかぎり社長はできないですよね。だから、この人だったらいいだろうってみんなが思える人。いかに能力があってもこいつとだけは一緒に仕事したくないっていう人はやっぱりダメですよね。人格とか性格とかそういうものが一番大きい要素ですね。リーダーとして相応しい人格かどうか。
野球選手でも一緒だと思うんですけどね。そういうものを見てみんなが協力するじゃないですか。みんなが協力しないかぎり、勝てないんですよ。WBCのとき、大谷選手が最初から最後まで主役で、そのおかげで自分の力を引き出した選手がすごく多いんじゃないかなと思ったんです。
栗山 確かにそうですね。最初にチームを作るときに、誰と一緒に野球をやりたいか、誰を近くで見たいか、誰を参考にしたいかという視点はありました。それが、例えば翔平だったりダルビッシュだったりと、何人かいたんですけど、そういう人たちが来るとチームがその方向にガッと寄っていくかなという狙いはあったので、そこはすごく大きかったように思います。
なおかつ、とにかく試合に勝って絶対世界一になるという強い選手たちなので、そういう浸透力もあるかなと思ったんですね。新社長の塚越さんの場合は、最初から人柄とか、何かこいつ将来楽しみだなみたいなのがいろいろあったんですか?
柳井 それはありますよ。あとは、やっぱり全体を見る目があるってことですよね。自部署だけ一生懸命になってしまう人が結構いるんですよ。そういう人はその部署にとってはいいけど、会社全体に対して関心がない人はやっぱりダメですよね。
栗山 いい人材を求めるとき、いまいる人の能力を育てるという発想と、外に能力があるならばそれを引っ張ってくるという発想がありますよね。この辺りはどういうふうに整理したらいいんでしょうか? 例えばピッチャーがここにも必要なんだとなったとき、お金がかかってもFAでいい選手を取ってくるんだというふうに考えますか?
柳井 そういう考えもあると思います。ただね、いかに能力のある人を持ってきてもその会社、チームに合わないとダメでしょ。だから能力のある選手を持ってきたら勝てるっていうことではないでしょ。それこそ自前で育成した選手が活躍してるチームほど強いじゃないですか。能力がある選手を持ってきたチームほど弱いじゃないですか。そんなもんなんですよ。特に日本ではそうなんじゃないかな。
栗山 ビジネスの世界でもそうなんですね。ということはやはり、できれば能力の適材適所を会社の中でも見極めてあげてうまくそれを育てていくということが大切なんですね。
柳井 その人の社歴が長くなるっていうことは、その人の一生の大部分をその会社で過ごすということです。だからこそ、その人が成長していかないといけないし、経営者はそれぞれ自分の人生がよかったと思うようにしてあげないといけないと思いますよね。
失敗した部下への指導法
栗山 僕もよく聞かれるんですけど、部下にどういうことばをかけますか? 例えば大事なものを任せてうまくいかないケースもありますよね。そういうときってどんなことばをかけるんでしょうか?
柳井 よく自分で考えろということですね。あとね、失敗したんだけどそれを失敗と思っていない人が多いんですよ。あいつが悪いから俺は失敗したと人のせいにして、自分の失敗として受け止めていない。伸び悩んでいるのに、自分は成長していると思っている。だから、お前失敗したじゃないかっていうことと、伸び悩んでるじゃないかっていうことを正確に伝えてあげて、どのように自分が変わるべきなのか言ってみろっていうのが一番いいんじゃないですか。それでその人が自分で考える。それが一番いい指導方法なんじゃないですか。本人が変われないかぎり、また同じことで失敗しますよ。
栗山 自分がどう変わるべきかを考えられると、方向性がはっきり見えてすっきりしますね。失敗はしてるんですけど。例えば柳井さんも会社が大きくなる中でやったこと全部が成功されたわけではないですよね。
柳井 起業家とか経営者は連戦連勝みたいに言われることがありますけど、そんな人いないんです本当は。失敗していることに自分で気付かないだけですよ。それかサラリーマン的経営で何にもやってない人だけですよね。本当は連戦連敗ですよ。それぐらい厳しく見たらうまくいくんじゃないですか。
1961年、東京都生まれ。東京学芸大学を経て、84年にドラフト外でヤクルトスワローズに入団。89年にゴールデングラブ賞を獲得。90年に引退し、解説者、スポーツジャーナリスト、白鷗大学教授などを務める。2011年11月に北海道日本ハムファイターズの監督に就任し、監督1年目でリーグ制覇。16年に2度目のリーグ制覇と日本一に輝き、正力松太郎賞を受賞。21年11月に日本ハムファイターズ監督を退任し、12月に野球日本代表監督に就任。23年3月にWBC優勝、5月に日本代表監督を退任。
23歳のときに父が経営していた山口県の紳士服店に入社。経験を積む中で、紳士服の枠を飛び越え新しいカジュアルウエアの店を作りたいと思うようになり、35歳のとき広島にユニクロ1号店をオープンした。42歳のとき社名をファーストリテイリングに変更。店舗数を3年で3倍以上の100にするという大胆な目標を掲げる。そして3年後宣言どおり目標を達成し会社を上場させた。