
写真提供:共同通信イメージズ
人口減少が進む日本で、数少ない成長産業として注目を集める観光ビジネス。政府は2030年までに訪日外国人旅行者数6000万人、旅行消費額15兆円の目標を掲げ、自動車に次ぐ「外貨を稼ぐ産業」として期待をかける。『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋。
観光ビジネスの主役はなぜOTA(on-line travel agent)に変わったのか。楽天トラベル、じゃらんネットなど30年で市場を支配したビジネスモデルの急成長の裏側に迫る。
世界の観光を支配するOTAという巨人について

『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
現代の観光ビジネスを考える上で、欠かせない存在がOTAです。OTAとはon-line travel agentの略で、その名のとおり「店舗を持たない旅行代理店」ということです。日本ではじゃらんネット、楽天トラベル、一休ドットコム(ヤフー!トラベル)あたりが有名でしょうか。海外ではブッキングドットコム、エクスペディア、アゴダ、トリップドットコムなどが挙げられるでしょう。いずれも皆さん一度は旅行の際に使用したことはあるのではないでしょうか。
このOTAはインターネットの歴史と同時に始まるため、その歴史は決して長いものではありません。ところが、現在では旅行業界におけるOTAのシェアは60%~70%とも言われています。わずか30年あまりで巨大な旅行マーケットの大半を支配するようになりました。
忘れもしませんが、私が観光業界に携わるようになった2010年前後ですが、とくに地方旅館における売上に占めるOTA比率は10%程度という状況も数多くありました。今では考えられませんが、他の予約ルートは「電話、案内所、リアルエージェント」といった具合でした。
ここで一旦、旅行の流通経路を整理しておきたいと思います。まずは先般のOTA、そして、対をなす表現として存在するのがリアルエージェントと呼ばれる存在です。こちらもその名のとおりで「リアル店舗を持つ旅行代理店」です。
代表的なところでいうと、JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行といったところでしょうか。こちらも皆さんは聞いたことがあるのではないでしょうか?
後述しますが、リアルエージェント各社ともBtoC向け事業を縮小していることもあり、若い世代では知らない層も出て来ているようです(余談ですが、パナソニックの知名度が20代で50%にも満たないというような事実も、我々や我々より上の世代は理解しないといけないと感じます)。
電話予約は説明不要だと思いますので、あとは募集ツアーやメディアと呼ばれるルートがあります。これは「新聞やWebなどで旅行ツアーを募集して、ある程度の人数が集まったら開催される」というタイプの旅行です。代表的なところだとクラブツーリズムや阪急交通社といったところがあります。
インターネット登場以前は、当然OTAという存在もなかったため、旅行の大半の流通経路をリアルエージェントが担っていました。団体旅行も旅館ホテルの代わりに営業に出向き、個人旅行も当時は旅行に行くとなれば旅行代理店のパンフレットを見て旅行代理店に電話をするか、旅行代理店の店舗に訪問するかというのが主流だったわけで、旅行流通ルートの要となっていました。
それを一変させたのがインターネットの存在でした。インターネットは旅行代理店を通さずに直接、ホテル旅館に申し込むことを可能にしたのです。
しかし、それはそれで、その観光地にどんなホテル旅館があるのか分からないという課題を抱えていたため、インターネット上で全ての旅館ホテルを見比べるようにしたのがOTAでした。
このビジネスモデルは時代の波とともに急成長をし、(ほぼ2000年前後に今のOTAが勃興しているため)10年足らずで市場シェアを一気に伸ばすことになりました。
ここでふと疑問が浮かぶと思います。日本のリアルエージェントとOTAの顔ぶれを見比べると全く異なることが分かると思います。なぜリアルエージェントたちはOTAビジネスをやらなかったのでしょうか?
シェアの問題ですので、当然ながらOTAのシェアが伸びればリアルエージェントのシェアが減る訳です。
実はリアルエージェント3社ともOTAビジネスを持っているのです。JTBはるるぶトラベル、近畿日本ツーリストはステイプラス(今はe宿)、日本旅行も日本旅行WebというOTAを保有していたのです。
しかし、なぜOTAとしてのシェアを確立できなかったのか? 答えは、あくまで私の推察ですが、「イノベーションのジレンマ」に陥ったからではないかと感じます。当時旅行代理店のビジネスモデルはあまりに成功してしまったがゆえに、OTA事業に全てのリソースを振り向けることができなかった。
そしてもうひとつは「出自の違い」も原因なのではないかと思います。代表例は楽天ですが、インターネットビジネスに熟知した楽天は、餅は餅屋と言わんばかりに、インターネットビジネスの特性を活かしてシェアを拡大していきます。
同じ旅行代理店ビジネスでありながら、インターネットビジネス(ECビジネス)の側面も強かったOTAビジネスにはインターネットビジネスの知識も不可欠だったのです。
OTA企業の戦略は実に巧みでした。リアルエージェントが半年に1回しか料金改定ができないのを横目に、リアルタイムで料金の変動ができる。来週ガラガラで指をくわえて待っているよりも、少しでも旅行客を呼び込みたいホテル旅館は割引を実施し、その結果、同じプランを購入するにしてもOTAで予約した方が安いということも頻発し、それを知った消費者はOTAで予約をするような消費行動をとるようになっていきます。そして、そこに楽天ポイント等のポイント経済圏が組み込まれ、溜まったポイントを再びそのOTAを使って旅行するというモデルが完成したのです。
このあたりはビジネス視点での比較でも実に興味深い現象でした。
そして、決定的だったのが2020年からはじまった新型コロナでした。外に出られない中でオンラインで買い物をするという行為が習慣化され、旅行のオンライン化も加速することになります。それまで旅行代理店を使っていたであろう年配層も、オンライン予約をするようになりました。日本旅館協会が発表している予約ルートのデータで、コロナ前まで40%近くあったリアルエージェントの比率はコロナ禍で15%程度に減少し、変わってOTAが15%シェアをさらに拡大し、その差は決定的なものとなりました。
早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱UFJ銀行に入行。退職して、吉本興業の養成所( NSC )を経て約3年半芸人として活動。その後、観光業界へ転身し、アビリブに入社。プライムコンセプトの創業にも参画し、取締役副社長COOなどを歴任。宿泊施設や観光地のマーケティング・ブランディングを中心に300以上のプロジェクトを手がける。現在は地域活性化やDMO支援、講演活動など幅広く活躍している。著書に『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)がある。