写真提供:共同通信イメージズ人口減少が進む日本で、数少ない成長産業として注目を集める観光ビジネス。政府は2030年までに訪日外国人旅行者数6000万人、旅行消費額15兆円の目標を掲げ、自動車に次ぐ「外貨を稼ぐ産業」として期待をかける。『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋。OTA(on-line travel agent)はどこまで価格競争を続けるのか? ブッキングドットコム、エクスペディアなど世界のOTAが進めるAI活用と次の一手に迫る。
OTAビジネス最前線

『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
まずは国内編ですが、じゃらん、楽天トラベル、ヤフー&一休の完全に3強です(念のため、一休はヤフーが2015年に買収したため、両社は一体運営となっています)。
2000年代のOTA勃興期より様々なOTAがシェア抗争を繰り広げましたが、現状ではこの3社に集約された状況です。
現在この3社間で繰り広げられているのは、3社間でのシェアの獲得競争です。日本の宿泊マーケットが20兆円でほぼ横ばいである以上、限られたパイの中でのシェアの奪い合いになるのは必然です。
OTAのシェア抗争としては、基本的には「クーポン or ポイント施策」と「キャンペーン」がメインとなっています。
「クーポン or ポイント施策」は読んで字のごとくですが、皆さんもOTAを検索していて、「5000円クーポン獲得」や「5000ポイント獲得」などという販促を目にすることが多いでしょう。そしてついつい、それだけお得になるからと予約してしまうという経験があるかと思います。
「キャンペーン」施策は、今この瞬間にOTAのトップ画面を開いても何かしらのキャンペーンが開催されているかと思います。「じゃらんお得な10日間」や「楽天スーパーSALE」や「一休スペシャルセール」などです。キャンペーンを開催することで、ユーザーには「今がお得に旅行できる」ということが伝わり、これもまた予約を促進する形となっています。
そして、このキャンペーンに上記のクーポン&ポイント施策を絡めることで、絶大な効果を発揮するのです。
事実、宿もOTAキャンペーンに参加すると、割引クーポンと引き換えに、多くの予約を獲得することができています。
そして、ここが資本の世界の戦いになっているところなのですが、OTA企業は宿からの割引を参加条件として引き出すと共に、自分たち原資でクーポンを発行することで、ユーザーにより多くの割引メリットを提供し、予約を促進しているのです。
もはや宿原資の割引+OTA原資の割引の組み合わせが常態化しており、およそ資本の体力がなければ市場シェアを取れない仕組みになってしまっているのです。
一方で海外OTAはどうなっているのでしょうか? 世界にはあまたのOTAがありますが、グローバルチェーンのブッキングドットコム、エクスペディア、アゴダ、トリップドットコムに焦点を絞りましょう。
彼らもまた、同じようにシェアの奪い合いが焦点に置かれています。「キャンペーン」と「プロモーション」が基本的な作戦で、国内OTAと同じ戦略と言えます。
ブラックフライデー・キャンペーンや独身の日メガセールなど、各国の商習慣に合わせたキャンペーンが展開されて、海外の場合は割引率が激しいので、参加条件として20%や30%という割引率を求められるため、集客に困った宿はやむにやまれず割引と引き換えにキャンペーンに参加し、露出をしてもらい、売上を確保しているという状況です。
ここで大事なポイントに気付きます。全てのOTAが「価格に重きを置いている」という点です。キャンペーンもクーポンもプロモーションも全て「いくらのクーポンを出せますか? 何%割引くことができますか?」という企画なのです。もちろん消費行動の中で「価格」という点は大事なポイントです。しかし、私たちが消費行動をする時に価格のみで決めていないこともまた事実だと感じます。
しかし、現状のOTAの仕組み上、価格以外に重きを置いたキャンペーンはなく、「他社よりウチにいくら安く出せますか?」という点のみが過熱してしまい、あまりに価格のみが強調されている点に懸念を感じています。
OTAは今後どこに向かうのか?
世界の旅行マーケットで巨大な力を得たOTAは今後、どこに向かうのでしょうか?
■キャンペーン&クーポンの常態化
事実、キャンペーンが常態化して、先ほどのとおりですが、いつOTAの画面を開いても何らかのキャンペーンが開催されているという状態です。
これはキャンペーンやクーポンがないと消費行動に移らない私たち消費者側の問題もありますが、そこで売上が上がるという結果が出てしまう以上、この流れは止まらないと思われます。
これが常態化してしまうと、消費者側も「キャンペーン以外では買うと損だ」と思うようになってしまい、キャンペーン期間以外での売上が減少することになってしまいます。
残念ながら事実としてデータはそのようになってしまっています。
キャンペーンの長期化、キャンペーンの頻度の上昇、キャンペーンに求められる割引率や手数料増加などが想定されます。
■囲い込み化
どのOTAもポイントプログラムや会員制度を有しています(ホテルズドットコムなどは10泊すると1泊分無料になる)。これは当然ながら使えば使うほどロイヤリティを上げていき、そのOTA内で予約行動を完結させることになります。
■包括化
海外OTAではとくに顕著ですが、宿のみならず、交通(フライト&電車&レンタカー)、アクティビティを全てひとつのプラットフォーム内で予約を完結させようという動きです。海外OTAの画面を開いてもらえれば分かると思いますが、そのようなメニュー構成になっています。
■パーソナライズ化
こちらも海外OTAでは顕著ですが、その人の予約履歴や検索履歴から判断して、お勧めする(=検索結果の)宿の順番をその人の好みの結果に変えていくという手法です。
その先には何があるのでしょうか?
そうです。AIとの融合を見据えているのです。事実、ブッキングドットコムもエクスペディアもトリップドットコムもAIプランナー機能をリリースしており(一部日本では未公開)、AIに必要情報を入力することで、旅程を提案するという機能をリリースしているのです。
これと、包み込み化とパーソナライズ化は非常に相性がよいのです。
ユーザーに対して、旅程を提案し、その旅程の全て(交通、宿、アクティビティ、果てはレストランまで)をそのプラットフォーム内で完結して予約してもらい、そのデータを学習し、次回はよりその人の好みに合った旅程(飛行機のクラス、宿の好み、アクティビティの種類、レストランのランクなど)の精度を上げて提案する。すると、一層、ユーザーはその提案に信頼を寄せるようになります。
そしてOTAとしては、その顧客の全ての旅程を囲い込めるという戦略が浮かび上がるのです。
世界のOTA3社が全く同じ戦略を取ろうとしていることは、その証左だと感じています。
反面、それをやらないとAI企業にOTAのポジションも奪われるという危機感も同じくらいにあると言えます。
早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱UFJ銀行に入行。退職して、吉本興業の養成所( NSC )を経て約3年半芸人として活動。その後、観光業界へ転身し、アビリブに入社。プライムコンセプトの創業にも参画し、取締役副社長COOなどを歴任。宿泊施設や観光地のマーケティング・ブランディングを中心に300以上のプロジェクトを手がける。現在は地域活性化やDMO支援、講演活動など幅広く活躍している。著書に『観光ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)がある。