
写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
リーダーが指示や鼓舞をしなくても、部下が自発的に動き、チームに活力と価値をもたらす――そんな仕組みは、どうしたら構築できるのか。『 無言のリーダーシップ』(田尻望著/SBクリエイティブ)から内容の一部を抜粋・再編集。高付加価値を生み出すキーエンスで著者が学んだ、革新的なマネジメントの神髄に迫る。
部下に言いにくい話をするとき、前置きが長くなり要点を伝え損ねがちだ。そんな場面でも感情をうまくマネジメントし、的確に要点を伝える「リーダーのコミュニケーション」とは?
本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2025年9月22日)※内容は掲載当時のもの
感情的混乱を生まない話し方

『 無言のリーダーシップ 』(SBクリエイティブ )
――言いにくい話ほど「結論」を先に
リーダーのなかには、「まず背景や経緯を細かく理解してもらって、それが終わったら結論を伝える」という話し方をする人がいる。「結論から話せ」というビジネスルールはよく認知されているが、言いにくい話や入り組んだ話ほど、守りに入るため前置きが長くなりがちだ。
しかし、結論が見えないまま話が進むと、聞き手は不安になって余計なことを考え始める。「何の話をしているの?」「要するに私はダメって言われるんじゃ?」とモヤモヤした疑問が生まれ、意図が伝わる前に感情的な抵抗が生まれてしまう。
リーダーが意図的に“サスペンス風”に結論を引き延ばしているわけではないが、聞き手にとっては、ゴールがわからないまま聞かされる状態になる。言いにくい話をするとき、相手の感情を過度に揺さぶらず冷静なコミュニケーションをとるためには、「まず結論を伝える」という初心に返ることが実は有効だ。
――いつ感情を扱うべきか?
「結論を先に伝えるべき」と言われる一方で、「言いにくいことを伝えたあとの部下の感情は放置して大丈夫?」と迷うリーダーもいる。最もスムーズな順番は、「結論を話す→感情を聞く→背景や根拠をフォローする」だ。
たとえば、リーダーが多忙な部下Cさんに新しい業務を頼みたいと思っていたとしよう。
×悪い例(共感を示せていない)
「Cさん、次の新商品開発のリーダーをやってもらうことに決めたよ。このプロジェクトは来月から始まるから、今の仕事は誰かに引き継いでおいて。会社として重要なプロジェクトだから、失敗は許されないからね。頑張ってよ。何か質問ある?」
〇良い例(共感を示し、価値を伝える)
「Cさん、次の新商品開発のリーダーを任せたいと考えているんだ。あなたの最近のプロジェクトでの成果を見て、このチャレンジに最適だと感じたんだよ。このプロジェクトは、あなたのキャリア形成に重要な経験になると思うし、より大きな責任を任せられる機会にもなるはずだ。現在の業務で忙しいのは承知しているけど、調整できる部分はサポートするよ。どう思う? 今の率直な気持ちを聞かせてくれないかな」
この違いは、相手の気持ちに共感を示しつつ、「未来の価値(成果)」を提示しているかどうかにある。悪い例では、Cさんの現状や気持ちへの配慮がまったくなく、一方的に決定を押し付けている。また、選んだ理由やCさんにとっての価値を説明しておらず、プレッシャーだけを与え、支援や成長の視点が欠けている。そして、対話の余地がほとんどないため、本人の気持ちが置いてけぼりになっている。
一方、良い例では、最初にCさんの実績を認め、選んだ理由を伝えている。そして、Cさんにとっての将来的な価値とメリットを明確に提示しつつ、現状の忙しさに理解を示し、サポートすることを約束している。そして、対話の余地を残すことでCさんの意見を尊重し、一方的な押し付けではなく、共に考える姿勢を示している。
Cさんが「新商品ですか…正直不安です」と感情を吐露(とろ)したら、「やっぱり不安だよね。でも、実はこういう支援体制を組むつもりなんだよ。それから…」と背景を補足していけばよい。
この伝え方をすれば、先に「未来の価値」を提示し、次に感情のケアを行い、最後に論理的な補足を加えるという流れができ、スムーズな意思決定につながる。
――「未来の価値」を結論にする
部下のモチベーションを高めるという観点で言えば、私がマネジメントの現場で見てきた限り、結論は「未来の価値」にすることが望ましい。
たとえば、次のような指示をされたとき、どちらのほうがやる気が出るだろうか?
×悪い例(指示が結論で、共感や価値の説明が不十分)
「この報告書、金曜日までに必ず仕上げてください。締め切りは厳守でお願いします。他の業務より優先して取り組んでください」
〇良い例(「未来の価値」が結論)
「この報告書をしっかり分析することで、クライアントの真のニーズが明確になり、来期の提案がより的確になります。その結果、契約率が15%も向上した事例もあるんです。チームとしての成果にも大きく貢献するので、金曜日までに仕上げていただけると助かります。現在の業務状況はいかがですか?」
悪い例の伝え方では、単なる指示・命令になっており、なぜその報告書や作業が重要なのかという価値の説明がまったくない。また、相手の状況への配慮や共感が示されておらず、一方的なコミュニケーションになっている。
一方、良い例の伝え方は、報告書を完成させる価値を、数字を使って具体的に伝えており、チーム全体の成果につながるというメリットも示している。また、この説明を指示を出す前に行っていることもポイントである。そして、相手の状況を気にかける質問で締めくくることで、共感と理解を示しながら協力を求めていることが伝わる。
後者の伝え方のほうが、「この仕事をやる意義」に焦点が当たり、単なる作業としてではなく、「成果につながる行動」だと認識できるはずだ。
このように、指示を与える際は「なぜそれが重要か」という価値を先に伝え、相手の立場に立って共感を示すことで、より前向きな反応を引き出すことができる。
京都市出身。大阪大学基礎工学部卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニア、国内外の販売促進技術に従事。2017年の創業以来、企業の高収益・高賃金を同時に実現する独自メソッドを開発し、シン・マーケットイン型経営実現のための付加価値戦略コンサルティングおよび人財育成事業を展開。「成果にコミットするコンサルティングファーム」を掲げ、多数のコンサルテーション実績を残している。大手企業コンサルティング実績として、売上2兆円超の企業や1兆円クラスの企業を複数、中堅IT企業を3年で年商45億円から75億円に成長させるなど、投資額以上の成果創出に定評がある。またエンジニアとコンサルタントの両面から、付加価値に繋がる生成AI活用の仕組みを伝えている。直近ではAIアバターを活用した営業トレーニングシステムを開発し、構造化された組織育成を実現するAI活用コンサルティングを提供開始。日経、プレジデント、NewsPicksやPIVOTなどメディアに出演、Forbes JAPANから世界の96賢人として選出。著書に10万部超『付加価値のつくりかた』など。