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リーダーが指示や鼓舞をしなくても、部下が自発的に動き、チームに活力と価値をもたらす――そんな仕組みは、どうしたら構築できるのか。『 無言のリーダーシップ』(田尻望著/SBクリエイティブ)から内容の一部を抜粋・再編集。高付加価値を生み出すキーエンスで著者が学んだ、革新的なマネジメントの神髄に迫る。
高価格の商品を扱う企業は、顧客に価格に見合う価値を伝える努力が必要だ。納得感を得る体験をどう提供するか。その鍵を握る「ストーリー」について解説する。
本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2025年10月6日)※内容は掲載当時のもの
感動こそ価値の源泉
――「ステーキが高い」と思わせない物語の力

『 無言のリーダーシップ 』(SBクリエイティブ )
――高級ステーキ店での体験 価格が「価値」に変わる瞬間
人は「高い」と感じる商品でも、「払う価値がある」と納得すれば、むしろ喜んでお金を払う。これは、単なるコストや機能だけではなく、ストーリーが価格の正当性を裏付けるからだ。
ある日、Lさんはビジネスの大事な接待のために高級ステーキ店を訪れた。メニューを見ると、一皿2万円のステーキが並んでいる。「た、高い…」と内心思ったが、ウェイターがゆっくりと話し始めた。
柔らかく落ち着いた声のトーンで。
「本日召し上がっていただくのは、〇〇牧場で育てられた黒毛和牛です。この牛は生後半年からストレスのない環境で育ち、餌も特別な配合飼料を使用しています。芳醇な香りの良質な牧草と、厳選された穀物の絶妙なバランスが、お肉の中に複雑な旨みの層を作り出すんです。ここに至るまでの2年間、畜産農家たちが毎日世話をし、春の柔らかな風から冬の冷たい空気まで、気温や湿度も細かく管理されているんですよ」
Lさんは、その牛が育つ過程に思いを馳せた。ただのステーキではなく、「牛を育てる人々の手のぬくもりと情熱」「長年の経験が生み出した芸術作品のような味」が目の前の磨き上げられた白い皿に載っていると知ったとき、「これは単なる食事ではない。五感で味わう物語を体験しているんだ」と感じた。
ナイフを入れると、まるでバターを切るかのようにスッと刃が通る。かすかな「じゅわっ」という音と共に、肉の中から溶け出した脂が艶やかな輝きを放ち、立ち上る湯気と共に、深く甘い香りが鼻腔をくすぐった。
ステーキを一口食べた瞬間、舌の上でとろけるような食感と共に、ふわりと広がる旨みの波。
ウェイターが続けて語る。
「この部位は特に脂の甘みが際立ち、通常の熟成方法ではなく、特別な低温熟成をしているんです。熟成庫のなかで、一定のリズムで空気が循環するなかで、お肉は少しずつ変化していきます。まるで時間という名の調味料で味付けされているようなものです。お客様の舌で、その違いを感じてみてください。最初に感じる繊細な甘み、そして口の中で広がる深いコクと余韻の長さに注目されてみてはいかがでしょう」
その瞬間、Lさんの頭のなかには「2万円のステーキ」という価格ではなく、「2年間のこだわりが詰まった一皿」「五感全てを目覚めさせる芸術作品」として記憶された。彼の隣にいたクライアントも、同じように目を丸くして満足げな表情を浮かべながら「これはすごいですね。単なる味の良さだけではなく、物語を味わっているような贅沢さを感じます」と驚いている。皿の上で輝く肉汁の中に、二人の感動が映り込んでいるかのようだった。
――「高い」と感じさせない物語の力
もしウェイターが何も説明せずに「こちら、本日おすすめのステーキです」とだけ言って提供したら、Lさんは「2万円もするなんて高いな」と思っただろう。
しかし、そこに「育てる過程」「料理のこだわり」「シェフの技術」といった物語が乗ることで、価格に対する疑問は「なるほど、そういう価値があるのか」と納得へと変わる。そして気づくだろうか? 彼の隣にいるクライアントも目を丸くしていたのだ。その価値は金額にしてしまえばいくらになるのだろうか。
逆に、どんなに素晴らしい肉でも、「ただの高いステーキ」として提供されれば、客は「本当にこの価格に見合っているのか?」と不信感を抱く。人は単に「物」や「機能」にお金を払うのではなく、それが生み出す体験や感動に対して価値を見出すのだ。
京都市出身。大阪大学基礎工学部卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニア、国内外の販売促進技術に従事。2017年の創業以来、企業の高収益・高賃金を同時に実現する独自メソッドを開発し、シン・マーケットイン型経営実現のための付加価値戦略コンサルティングおよび人財育成事業を展開。「成果にコミットするコンサルティングファーム」を掲げ、多数のコンサルテーション実績を残している。大手企業コンサルティング実績として、売上2兆円超の企業や1兆円クラスの企業を複数、中堅IT企業を3年で年商45億円から75億円に成長させるなど、投資額以上の成果創出に定評がある。またエンジニアとコンサルタントの両面から、付加価値に繋がる生成AI活用の仕組みを伝えている。直近ではAIアバターを活用した営業トレーニングシステムを開発し、構造化された組織育成を実現するAI活用コンサルティングを提供開始。日経、プレジデント、NewsPicksやPIVOTなどメディアに出演、Forbes JAPANから世界の96賢人として選出。著書に10万部超『付加価値のつくりかた』など。