写真提供:©M. Scott Brauer/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ思い込みにとらわれずベストな問題解決をするための手法とは? ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授が、学生やクライアントに行った演習を紙上で再現した『ハーバード大学ビジネススクール特別講義演習 あえて違う考え方をしろ』(SBクリエイティブ)から内容の一部を抜粋。優れた経営者らも実践する創造的な思考法を紹介する。
他者に勝る意思決定ができる人に共通するシンプルな姿勢とは? 学習力と適応力を発揮するために必要な6つの普遍的な行動を取り上げる。
はじめに

『ハーバード大学ビジネススクール特別講義演習 あえて違う考え方をしろ』(SBクリエイティブ)
ビジネスにおいて、わたしたちは日々何かしらの選択に迫られている。
A案もしくはB案どちらで提案しようか。商品の名前はどうしようか。どんなデザインのパッケージにするべきか。このビジネスの対象者はどの層が適切か。どの企業とタイアップするのが望ましいか。あの人にはどの部下の指導を任せようか…。小さなものから大きなものまで、ビジネスとは選択であると言えるほど、わたしたちは何かしらの問題を毎日のように解決し、最適解を生み出さなければならない。
そんな意志決定をしている人の中には、たとえば刷新でも、マネジメントでも、パフォーマンスにおいても、同等の立場の人を常に凌駕(りょうが)する者がいる。
その秘訣は何か? わたしが見つけた答えは一見シンプルに思えるものだった。
彼らがオープンマインドだからだ。
オープンマインドとは、
・自分自身をオープンに保ちつつ、周囲の意見にも敏感に耳を傾けること
・異なる意見を認め、自分の考えが正しいと決めつけない姿勢
・多様な考えや新しい意見に対して、理解を示し受け入れようとする意欲
オープンマインドな人は、自分が知っていることやそれに対する自分の考えについて、「妥当か?」「信頼できるか?」などと絶えず疑問を抱いている。
複雑で不安定な今日の社会では、このプロセスはこれまで以上に必要とされるのだ。
実際に、アメリカのシンクタンク〈ランド研究所〉が先日発表した報告書には、そのオープンマインドの重要性がこう強調されていた。
「歴史には、強大な権力を持ち全盛期を謳歌しながらも…やがて停滞して衰退していった者であふれている1」
しかし、そこから復活して再び成功した者もいる。
同報告書によると、この2種類の人たちの違いは「考え続けるバイタリティ」であり、復活のカギは「オープンマインドな学習力と適応力」だという2。
本書で改めて後述するが、心には6つの普遍的な行動があり、その行動に賢明に取り組めば、学習力と適応力を発揮できるようになる。
簡潔に言うと、オープンマインドの学習には、「“まじめな遊び”に取り組むこと」「無知と友になること」「正しい問いを立てること」「好奇心に浸ること」「パノラマ思考を使うこと」、そして「曖昧さを受け入れること」が必要だ。これらを実践すれば、型破りな考え方が可能となり、自信がつくだろう。そして、知能は生得的なものだとする従来の考え方よりも、自己鍛錬と学習を重視するようになる3。
言うまでもなく、オープンマインドになることは、健全で豊かな社会を取り戻すための第一歩に過ぎない。しかし、それは大きな前進となる一歩だ。この一歩がなければ、イノベーションも再生への努力も実を結ばないだろう。
幸いにも、これは誰もが習得できるスキルなのだ。
内なる声
「人が特定の考え方をしたり、特定の行動をしたりするのはなぜだろう?」と、わたしは長年疑問を抱いてきた。拙著の中(『心脳マーケティング―顧客の無意識を解き明かす』(ダイヤモンド社)と『Marketing Metaphoria(メタファーを使ったマーケティング)』)で、その疑問を直接取り上げた。
そして本書は、わたしがハーバード・ビジネス・スクールの学生や、コーチングのクライアントに実際にやってもらい、大成功を収めた演習を基にしている。そのうちのいくつかのエピソードやエクササイズは、本書の中で紹介する。
本書を書くためにさまざまな研究を行ったが、とりわけ実りの多い研究は、同僚と共に実施した何百人もの人たちへのインタビューだった。そこでは、創造的で先見性のある経営者、芸術家、学者、各分野の第一人者が、自分の思考スタイルを惜しみなく共有してくれた。
そして、バリエーションはあるものの、それぞれが“内なる声”に導かれた経験を語った。声は、「その想定をよく考えろ」「妥当性を疑え」と絶えずささやきながら、新しい見解やアイデアを模索するよう促したという。ある人は、まるで「肩に守護天使が座っていて、質問してくる」みたいだと語った。だからわたしは、その天使を心の「内なる声」と呼んでいる。
その声は、たとえば次のような質問をしてくるという。
・わたしは新しい考えを思いつくために、「まじめな遊び」精神で物事に取り組んでいるか?
・わたしは大胆な疑問を抱いているか?
・わたしは好奇心の赴くままに、未知の領域に足を踏み入れているか?
・わたしは他の分野の専門知識を学ぶ意欲があるか?
・わたしは曖昧さをチャンスの源と考えているか?
・わたしは自分が何を知らないかを把握しているか?
こうした自分への問い、あるいはチームで共有する問いは、尋ねては答え、また尋ねるといった具合に、何度も繰り返す必要がある。というのも、オープンマインドに学習して適応するという過程は、終わりのないプロセスだからだ。
そのうちに、自分の心は自分だけのものではないと気づくだろう。心は、他者によっても形づくられているのだ。状況や文脈がなければ心は機能しない。他者の心が自分に影響するという事実は、当然、わたしにも当てはまる。わたしのアイデアの少なくとも一部は独自のものだと思いたい。しかし実際のところその気持ちとは裏腹に、わたしが「あえて人と異なる考え方をした」と思っても、そのアイデアにはすでに大勢の人たちの手の跡が残っているのだ。
1. Michael J. Mazarr, Tim Sweijs, and Daniel Tapia, The Sources of Renewed National Dynamism (The Rand Corporation, 2024), 3.
2. Mazarr, Sweijs, and Tapia, The Sources of Renewed National Dynamism, 28.
3. 教育可能性についての優れた議論と、標準化された知能測定に対する批判的意見については、コンピュータ科学者の第一人者の著書を参照されたい:Leslie Valient, The Importance of Being Educable: A New Theory of Human Intelligence (Princeton University Press, 2024).
ハーバード・ビジネス・スクールの名誉教授であり、ハーバード大学の「心・脳・行動」イニシアティブの執行委員も務めた。認知神経科学、アートセラピー、言語学の手法と知見を取り入れ、消費者の無意識下にある思考や感情を理解するアプローチの世界的権威である。
英グラスゴー大学大学院英文学専攻修士課程修了。『PEAK PERFORMANCE 最強の成長術』『ALTER EGO 超・自己成長術』『CULTURE HACKS 日・米・中 思考の法則』『CAPTIVATE 最強の人間関係術』(以上、ダイヤモンド社)、『5秒ルール』(東洋館出版社)など、訳書多数。