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思い込みにとらわれずベストな問題解決をするための手法とは? ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授が、学生やクライアントに行った演習を紙上で再現した『ハーバード大学ビジネススクール特別講義演習 あえて違う考え方をしろ』(SBクリエイティブ)から内容の一部を抜粋。優れた経営者らも実践する創造的な思考法を紹介する。
3Mがポストイットを発明できたのは、誰もが心の中に持つ「予知能力者」を上手に活用したからだった。問題を解決する「賢者」と、機会を見出す「予知能力者」。2つの力をビジネスで生かすとどんな成果が上がるのか?
2人の遊び友達

『ハーバード大学ビジネススクール特別講義演習 あえて違う考え方をしろ』(SBクリエイティブ)
コンセンサスマップを使ってブレインストーミングをするとき、わたしはチームに2人の特別なキャラクターをイメージしてもらう――“賢者”と“予知能力者”だ9。
この2人のキャラクターは、実はみんなの心の中にいるが、その使用頻度は人によって異なる。両者はともに好奇心旺盛で、それぞれが注目する問題は違うが10、共に盲点――あるインタビューの参加者は「無知の穴」と表現した――を見つけるのが得意だ。
・賢者:好奇心を働かせて問題を感知し、分析し、解決するキャラクター。優れた探偵で、因果関係を推測するのがうまく、認知できる周辺視野が広い。つまり、幅広い経験を有し、類似の問題が他の状況でどのように解決されてきたかを理解している。
・予知能力者:問いを立てて答えを見つけるのが得意なキャラクター。たとえば、「ある決定(または行動)はどこでつまずく可能性があるか?」「わたしたちが後悔しそうなことは何か?」「わたしたちが見て見ぬ振りをしているものは何か?」といった問いだ。他の人が見逃している未来の予兆や現時点で見落とされている機会に注意を向ける。
“予知能力者”をうまく活用した一例が、ポストイットの発明である。
3M社の科学者スペンサー・シルバーが「表面にふんわりと貼り付く接着剤」を作ったとき、それは同社が最も必要としない発明に思えた。しかし同僚で科学者のアート・フライは、この発明品の潜在的な可能性に気づいた。ちょうど、賛美歌の練習をしていたときに、歌集に目印として貼り付けられる紙片、できれば本からはがれ落ちない程度にくっつき、用が済んだあとにはがしても本に傷がつかないような紙片が欲しいと考えていたのだ。
フライの中の“予知能力者”のおかげで、数十億ドル規模の製品群と、彼の言葉を借りるなら「まったく新しいコミュニケーション方法」が誕生した11。
もっとも、“賢者”も“予知能力者”も、「成功」や「失敗」といった概念にはその正反対の可能性があることに気づいている。だからこそ、共に過去の栄光に安住せず、「わたしたちが見落としている機会がまだあるのではないか?」と絶えず問いかけるのだ。
ビジネスの場面で、“賢者”と“予知能力者”が協働しながらまじめな遊びに徹した一例を紹介しよう。
あるティッシュペーパーのメーカーは、売り上げの減少に頭を抱えていた。マーケティング担当者たちは、この傾向を逆転させるにはどうしたらいいか議論した。ミーティングの冒頭で、彼らはブランドに関わるもっとも重要な概念――「やわらかい」とか「やさしい」といった概念――を切り離して考えたのだ。
そしてグループの中の“賢者”――物事を解決するのが好きな人――は、売り上げが低迷している理由を示唆しそうなアイデアや構成概念に注目した。そして次のような問いを立てた。
・ブランドに対する認識が、経営陣と消費者との間で違うのではないか? 消費者が主張していることを、経営陣が誤って解釈しているのではないか? だとしたら、経営陣の聴く力と理解する力を向上させるにはどうすればいいか?
・構成概念の伝え方を変えてみた方がいいだろうか? たとえば、広告の中で「やわらかさ」という側面をもっと強調できないだろうか?
・「やわらかさ」と「子どもにやさしい」という関連性をもっと強調した方がいいか? わたしたちが見落としているだけで、もっといい表現があるのではないか?
対して“予知能力者”は、通常、追加できるのに見落とされている要素に注目する。そしてこんな問いを立てた。
・さらにリサーチすれば、どんなことが明らかになるか?
・消費者に見落とされている構成概念の中に、考慮すべきものはないか?
・ティッシュペーパーに対する現在のメンタルモデルに、新しい構成概念を取り入れてもらうための最善の方法は何か?
・「良い親」という構成概念を取り入れて、「子どもにやさしい」という概念に結びつけることは可能か?
・構成概念同士の関係性を設計し直さなければならないような、見過ごされている社会の傾向や新技術はないか? たとえば「気候にやさしい」という概念を新たに強調してはどうか?
・競合他社の情報分析(コンペティター・インテリジェンス)によると、ブランドのリポジショニングが必要だろうか?
・マネージャーは異なるメタファー(隠喩)を使って、より力強いブランドストーリーを作れないだろうか?
「ブランドに対する短期的な脅威と感じられるものは何か?」という問いを立てて、マネージャーたちに“予知能力者”のように考えて答えを出すよう求めた。そのあとは“賢者”になったつもりで、その問題の解決方法を考えてもらった。さらに、もっとも差し迫った問題も特定してもらった。
こうした試みの結果、マネージャーと消費者とでは、「やわらかさ」と「耐久性」という2つの構成概念の関連性について、認識に大きな隔たりがあることがわかった。調査対象となった消費者セグメントは、やわらかさと耐久性は相反する要素、つまり、どちらか1つしか選択できないものと考えていたのだ。他方で、マネージャーたちはこの2つを両立できる――つまり両方を提供できる――と認識していた。
そこでこの2つの概念を辛抱強く喧伝した結果、消費者にもその理解を広めることができた。“予知能力者”と“賢者”になったつもりで考えたおかげで、新しい戦略が生まれ、最終的にキャンペーンを成功させることができたのだ。
9. Gerald Zaltman, Engaging Your Inner Wizard and Clairvoyant in Workable Wondering [working paper] (Olson Zaltman Associates, 2020) を参照のこと。
10. Maya Zhe Wang and Benjamin Y. Hayden, “Latent Learning, Cognitive Maps, and Curiosity,” Current Opinion in Behavioral Sciences 38, no. 4 (2021): 1-7.
11. “History Timeline: Post-it Notes,” post-it.com, https://www.post-it.com/3M/en_ US/post-it/contact-us/about-us/. Accessed January 11, 2022.
ハーバード・ビジネス・スクールの名誉教授であり、ハーバード大学の「心・脳・行動」イニシアティブの執行委員も務めた。認知神経科学、アートセラピー、言語学の手法と知見を取り入れ、消費者の無意識下にある思考や感情を理解するアプローチの世界的権威である。
英グラスゴー大学大学院英文学専攻修士課程修了。『PEAK PERFORMANCE 最強の成長術』『ALTER EGO 超・自己成長術』『CULTURE HACKS 日・米・中 思考の法則』『CAPTIVATE 最強の人間関係術』(以上、ダイヤモンド社)、『5秒ルール』(東洋館出版社)など、訳書多数。