写真提供:©M.Scott Brauer/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

 思い込みにとらわれずベストな問題解決をするための手法とは? ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授が、学生やクライアントに行った演習を紙上で再現した『ハーバード大学ビジネススクール特別講義演習 あえて違う考え方をしろ』(SBクリエイティブ)から内容の一部を抜粋。優れた経営者らも実践する創造的な思考法を紹介する。

 自然界の生き物の構造からF1のピット作業、詩のルールまで――。異分野からインスピレーションを得ることで、創造性が刺激され、型破りな発想が生まれるプロセスとは?

バイオミミクリー

 パノラマ思考のとりわけおもしろい実例として、建築家やデザイン・エンジニアが生物学を参考にするバイオミミクリーという手法がある12。

 呼び方は他にもいろいろあり、その一つ“バイオインスピレーション”は、斬新な洞察を生み出す効果があることをうかがわせるものだ。過去にはサメやキツツキ、軟体動物、フクロウ、ゴボウなどの研究が、車のリアビューカメラや建築機械、空気清浄機、燃料効率、無重力下での物の固定方法などの改善につながっている13。

 建設用工具の安全性向上に取り組んだ設計技師は、まず「自然界で衝撃吸収が発生しているのはどこか。どんな仕組みで、研究しているのは誰か」を考えた。そうやって好奇心の網を広げ、キツツキの頭蓋骨が衝撃を大幅に吸収する構造になっていることをキャッチした。そして次の深掘りの段階では、「その自然の構造を、どうすれば人間が使う道具に落とし込めるか。指針になる意見が聞けそうなキツツキ専門の生物学者はいないか」を考えた。

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異なる環境の似たプロセスを見つける

 画期的なアナロジカル思考のヒントをくれるのは、自然界だけではない。英ロンドンにあるグレート・オーモンド・ストリート病院は、なんとかして患者を集中治療室から手術室へもっとスムーズに搬送したいと考えていた。そうした移動は非常に神経を使う一方、みんな慌てているから、患者の生死に関わるようなミスが頻発していたのだ。

 そこで病院は、まずキツネになってこう考えた。「どの分野を参考にすれば、チームとしての連携を高めて大惨事を避けられるか」。そうして思いついたのが、F1のピットストップだった。F1では、最大20人ものピットクルーが連携し、ものの数秒で4個のタイヤを交換する。病院のチームはフェラーリのピット作業を見学し、さらにクルーを病院へ招いて自分たちの搬送手順を見てもらい、改善案を募った。その結果、なんとミスが66%も減ったのだ14。

縛りを生かして創造性を刺激する

 わたしたちは、未知の分野での経験が足りないことを負い目に感じたり、情報を得てもそれをどう使ったらいいかを教えてくれる専門家が見つからなかったりするせいで、異なる分野へ跳び込むのをためらうことがある。しかし、そうした考え方は間違いだし、そんなことで洞察を逃すのはもったいない。

 そこで、わたしが最近経験した、分野をまたいだ思考の実例を紹介しよう。

 このとき、リサーチチームは詩人のような思考を心がけた。誰も詩を書いた経験などなかったのにだ。ただし彼らは、詩には一定の構造と縛りがあり、実際にそれが創造性を刺激するきっかけになっていることは知っていた。たとえばソネット(14行詩)には、韻の踏み方と1行当たりの音節の数、アクセントの付け方に厳密な決まりがある。俳句も字数と主題が決まっている。そうした厳密な構造の制約から、歴史に残るような独創的で痛切な言語表現が生まれてきた。

 詩人は、どうすれば主題をきちっとしたルールの枠内で表現できるかに頭を悩ませるうちに、自分の言いたいことを伝えるのに、どのルールなら破ってもいいかという思考になる。散文の語順や文法のルールを柔軟に捉え、別のどんなテクニックを使えば、言いたいことを簡潔に伝えられるかを考えるのだ。比喩を使ったり、頭韻を踏んだり、ある言葉を繰り返したり。詩では(わたしがプレゼンでたまにやるように)「ここ重要!」と矢印付きの太字の注釈を入れたりはしない。

 リサーチチームはこの詩というアナロジーを使い、詩人になったつもりで、売り上げが低迷しているレストランチェーンの再建策を練った(チーム全員、詩に関する知識はわたしが今書いたことくらいしかなかったはずだ)。

 詩人がソネットを書く際のルールを参考に、自分たちにとっての縛りを考え、それを使って発想を転換した。ある部分に厳しいルールを課すことで、別の部分で柔軟な思考ができるようにした。具体的には、次のような方針でプロジェクトを進めた。

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 問題のわかりやすい解決策は無視することにした。最初に見つかった良さそうなやり方に飛びつくのではなく、できるだけたくさんの候補を考えることにしたわけだ。わかりやすい解決策とは、一部の店を閉めたり、スタッフを解雇したりといったコスト削減策を指す。そうした考えは脇へ置き、お客の目線で考えるなどの別の考え方をした。

 お客にとって、そのレストランに来ることの気持ちの面でのメリットは何か。提供する食事という物理的なサービスだけではなく、感情面のニーズをもっとうまく満たすにはどうすればいいかを検討したのだ。どのニーズがブランドの核で、どれに調整の余地があるか。こうした点を考えることで、ブランドの変えてはならない特徴を把握したうえで、コストカットが選択肢になり得る部分とならない部分を話し合えた。

 そして、純粋なビジュアル思考も心がけた。各メンバーは、自分にとってのそのレストランチェーンの意味と、ブランドの特徴だと思うものを絵で表した。それによって、チーム内でのブランドに対する共通認識と認識のずれ、つまりブランドの軸となる部分と変えてもいい部分とが明らかになった。

 たとえば、チェーンの象徴である照明設備はほとんどのメンバーが絵に描いたし、大人数で一緒に食事を取りたいグループに人気だという認識も共通していた。しかし同時に、どのメニューを描くかは人によってばらばらだった。そうやって、チームはブランドの愛されている要素や印象的な部分、メインの顧客層、そして看板メニューが欠けているという事実をつかんだのだった。

 また、アイデアを外部の人間に伝えて、フィードバックをもらった。詩人のように考えるエクササイズの締めくくりに、メンバーはそれぞれ、メンバーではない人から意見を聞き、先ほど描いた絵を見せるなどした。見せる相手はいろいろで、店のお客のこともあれば、プロジェクトに関わっていない同僚や家族のこともあった。自分の子どもに話を聞き、7歳の子どもにとってそのレストランの一番の思い出は何かを探り出したメンバーもいた。それからもう一度集まって、新しく集まった意見を披露し合い、考え方そのものに新しい風を吹き込んだ。

 こうした“ルール”を課しても、答えが直接見つかるわけではない。どちらかと言えば、ルールを設ける目的は、最初は思いも寄らなかった場所に目を向けることで、クリエイティビティに火を点けるためにある。今回の例であれば、詩人のつもりで考えてみるという方針のおかげで、似たようなアイデアの堂々巡りから抜け出し、型にはまるのを避けられた。

12. Daniel J. Finkenstadt and Tojin T. Eapen, Bioinspired Strategic Design: Nature-Inspired Principles for Dynamic Business Environments (Routledge, 2024); Michael Pawlyn, Biomimicry in Architecture (RIBA, 2016); and Dayna Baumeister, Biomimicry Resource Handbook: A Seed Bank of Best Practices (Biomimicry 3.8, 2014).
13. ノッティンガム・トレント大学で知能工学システムを研究するアル=ハバイベ教授は、論文の中で〝バイオスピレーション〟という言葉を使った。“Five Human Technologies Inspired by Nature-From Velcro to Racing Cars,” The Conversation, December 30, 2022, https://theconversation.com/five-human-technologies-inspired-by-nature-fromvelcro-to-racing-cars-195593. 問題箇所と特定の動物を照らし合わせてみよう。ヒント:エアフィルターを研究する科学者は、軟体動物について学ぶことで、斬新な解決策を見いだした。
14. Victor E. Sower, Jo Ann Duffy, and Gerald Kohers, “Ferrari’s Formula One Handovers and Handovers from Surgery to Intensive Care,” American Society for Quality, August 2008, https://gwern.net/doc/technology/2008-sower.pdf.