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こってりスープで熱狂的なファンを抱える「天下一品」。競争の激しいラーメン業界で半世紀にわたり支持を集めてきたのは、味だけが理由ではない。『天下一品 無限の熱狂が生まれる仕掛け』(日本実業出版社)から一部を抜粋。木村勉会長は、なぜ顧客との対話を重視したのか。ファンとの強い結び付きを支える現場主義をひもとく。
直接聞いたファンの声に応える

『天下一品 無限の熱狂が生まれる仕掛け』(日本実業出版社)
木村会長は数字よりもとにかくお客さんの生の声を集めた。
店舗巡回をするだけでなく、「スパリゾート雄琴あがりゃんせ」でお風呂に入って居合わせたお客さんからもヒアリングした。コミュニケーションが好きな人なので、店舗に行ったときは必ずお客さんとお喋りをする。従業員にも叱咤激励する。
いきなり話しかけられたお客さんのなかには、「このおじいちゃんだれや?」となる人ももちろんいるが、会長はお客さんと同じ目線になって、「おいしいですか?」「今日何食べてはんの?」と聞く。お子さんに声をかけることもある。
かしこまった感じで聞くわけではなく、ナチュラルにお客さんにすっと溶け込んでいく。
10月1日の「てんかいっぴんの日」には2023年まで毎年お店を巡回していた。必ず滋賀と京都の直営店をフードコートも含めて朝から19店舗ぐらい巡回していた。
この日は「スパリゾート雄琴あがりゃんせ」の優待券を束で持って行って、行列に並んでいるお客さんに「お待たせしてすみませんな」と言って、券を配りながらコミュニケーションをとる。
しっかりユニフォームを着てお店を回るので、会長だと気づいたお客さんは「会長、写真撮ってください」「握手してください」となる。
会長に認められたい常連客は「僕、今日5軒回りました」と会長に自慢し「5軒も行ったん? それは行きすぎや」と会長はツッコむ。こんなフレンドリーなラーメン店の会長はなかなかいない。

ふつうの企業なら優待券を配る作業は従業員やアルバイトがやることが多いだろう。
しかし、会長は自らそれをやりたがる。スタッフが配ろうとしたら、「わしがやる」と券を取り上げてしまうのが木村会長だ。
だからスタッフは券の補充係とタイムキーパーとなる。
「会長お時間です」と言って、アイドルの握手会の剥がし屋のように会長を次の店に案内する。根っからのコミュニケーション好きである会長だからこそ、ダイレクトなお客さんの声がつねに入ってきていたのだ。
愛の深さがご意見の量
「天下一品」のホームページにある「よくあるお問い合わせ」をよくみると、「おいしいラーメンのつくり方」という質問が入っている。
「営業時間はいつですか」「商品が届きません」「送料はいくらですか」のような業務的な問い合わせが多いと思いきや、まっすぐにおいしいラーメンのつくり方の問い合わせがよく来るというのはおもしろい。
「天下一品」のファンは良いことについても悪いことについても、リアクションの大きい人が多い。言いたがりのお客さんが多いのだ。
本部としては、お客さんがそれだけ「天下一品」愛が深いんだと前向きに理解している。
「天下一品」が嫌いだったらまず無関心なはず。悪い意見も言ってくださるだけありがたいと受け止めている。
お客さんの愛の深さがご意見の量につながる。お店に関する声が多ければ多いほど良いことだと解釈している。
「こってり」を大事にしながらつねに変わり続ける
「こってり」という他社にない最大の武器をもち、ファンもしっかりついているだけに、別に新しい商品などはつくらなくても成り立ってしまいそうなところを、各所から「これやりたい」「あれやりたい」と企画が出てくるのは理想の形かもしれない。
しかし、そこは「天下一品」であってもつねに危機感がある。
飲食店も選ばれる時代。
ラーメン業界は競合が多く、麺類に広げれば、そば、うどん、パスタとあるなかで「天下一品」を選んでもらうためには、つねに変わり続けなければならない。近年のコスト高もそこに拍車をかけている状況だ。
そういう意味でも、現場からの声を待っているだけではなく、じつは本部発信の企画が増えてきている。
50周年を迎えた2021年あたりから、本部発信の新メニューが増え、自ずと統一メニューが多くを占めるようになってきている。そうなると現場からはオペレーションが大変だし、頼むからこれ以上は増やさないでくれと声が出る。
それでもつねに変化、改革というのがいまの考え方だ。「天下一品」ですら、変わらずに漫然とやっていたらダメだという危機感があるのだ。
2024年の「令和の米騒動」はわかりやすいピンチだった。
チャーハンなどの限られたサイドメニューに頼っていたら、米の値上がりと心中してしまうことになる。
たとえチャーハンができなくなっても、餃子がある、唐揚げがあると二の手三の手をもっていることが大事なのだ。過去には鳥インフルエンザもあった。
かつては変わらないことを良しとした時代もあり、良いもの一筋で、よそはよそ、うちはうちでやってきたが、絶えず何が起こるかわからないこのご時勢においてはそうは言っていられない。
危機的状況でもSNSでバズを生んだ「コップdeこってり」
以前は持ち帰りなんてタブーだと言われてきたが、コロナ禍になって、「天下一品」は他よりかなり出遅れていたことに気づいた。むしろ、これまで一切手をつけていなかったに等しいので、そこから慌ててテイクアウトメニューの開発に着手したのだ。
基本、ラーメンは冷めたら全然おいしくないし、麺がスープを吸ってしまうし、家まで15分以内で帰ってくださいと伝えるのも現実的ではない。「レンジでチンするにはどうつくったらいいか」など、考案するのがとにかく大変だった。
しかし、コロナ禍においてはやるしかなかったのだ。歩みを止めたらいっきに転落してしまうほどの危機感だった。
そこで、家で調理してもらうお持ち帰りの「家麺」を開発し、一生懸命販売した。そうこうしているうちに、専用の器で電子レンジでチンで完成するお持ち帰り麺「レンチンラーメン」も打ち出した。
全店での展開は難しかったので、直営店中心に展開したが、フランチャイズ店においてはやりたいオーナーがいる店舗に限定して販売していた。
「コップdeこってり」というスープだけ持って帰れるメニューも新展開した。これはSNSで大バズリした。

こってりスープだけ売るとはさすがにビックリした。
以前から常連客に「スープだけ売ってほしい」「水筒に入れてほしい」など冗談のように言われてきたことが実現化したのだ。いまも東京の中野店や京都の知恩院前店では展開中だ。
コロナ禍で生まれた商品だが、こってりスープのすごさを知らしめる商品となった。このときにファンがあらためて思ったのは、「天下一品」はやはりスープが主役で、スープが命ということだ。
全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。メディア出演、ラーメンの商品監修など多方面で活躍中。ラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「ABEMA的ニュースショー」「熱狂マニアさん!」(TBS)「サクサクヒムヒム ☆推しの降る夜」(日本テレビ)などテレビ出演も多数。本の要約サービス「フライヤー」執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。著書に『できる人だけが知っている「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム新社)、『ラーメン一杯いくらが正解なのか』(早川書房)がある。(撮影:©伊東武志)