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こってりスープで熱狂的なファンを抱える「天下一品」。競争の激しいラーメン業界で半世紀にわたり支持を集めてきたのは、味だけが理由ではない。『天下一品 無限の熱狂が生まれる仕掛け』(日本実業出版社)から一部を抜粋。ラーメン業界の「1000円の壁」をどう乗り越えるか。値上げだけに頼らず、売上を伸ばす方程式を解説する。
屋台で培った顧客との距離感

『天下一品 無限の熱狂が生まれる仕掛け』(日本実業出版社)
もう1つ見逃せないのは、会長が屋台で培ったお客との距離感をいかに保てるかという点だ。
チェーン化すればするほど、店舗は無機質になりがちである。「天下一品」はこれまで秘密主義でやってきたので、厨房がみえないお店が多かったが、近年はオープンキッチンを採用するお店も出てきている。
昨今の人手不足の影響で、「天下一品」もタッチパネル式や自動精算の導入を進めるなかでも、声かけなど可能な範囲でコミュニケーションを重視する姿勢を崩していない。
業界全体をみても、「サイゼリヤ」が最近まで紙の注文票を残していたり、「吉野家」が食券制に移行せずお会計で店員とのやりとりを残したりしているのは、まさに顧客接点の価値を意識してのことだ。
「サイゼリヤ」は、現在はモバイルオーダーに移行したが、依然として口頭注文の道を残している。「天下一品」は全店統一にせず、店の立地や客層に合わせて顧客とのコミュニケーションの濃淡を調整している。
価格戦略と「1000円の壁」の考え方
ラーメン業界の「1000円の壁」問題。
お店側もお客側もラーメン1杯1000円は高いと感じるという心理的な問題だ。
以前から言われてきた問題だが、人件費やこのところの原材料の高騰や水道光熱費の値上げの流れから、1000円以下では物理的に店を維持できないレベルにまで来ている。特に小麦や肉の値上がりは直接的なダメージを与えていて、いままでの価格では厳しく値上げを余儀なくされているラーメン店も数多い。
「天下一品」も例外ではない。「天下一品」のように多店舗展開していて、大量仕入れによるスケールメリットがあるお店であっても、原材料の高騰の打撃を受けており、「1000円の壁」にぶち当たっている。
「天下一品」のこってりの価格は本書執筆現在、関西で920円、関東で940円。何とか1000円以内に踏みとどまっている。本部としてはもうこれ以上はさすがに値上げしたくないという考えだ。
しかし、このまま値上げをせず、利幅を減らし続けるのでは経営が成り立たない。
「天下一品」の戦略は、①客単価と②来店客数で総合的に売上を伸ばしていくことだ。
①客単価
客単価については、ラーメン1杯だけではなく全体的に改善を図っていく考えだ。
そこで大事になってくるのがサイドメニューである。ラーメンだけ食べてもらうのではなく、サイドメニューを注文してもらうことで客単価を上げていく。前述したとおり、「天下一品」ではサイドメニューの開発に命をかけており、ラーメンと一緒に注文してもらえるよう、日々開発を重ねている。
「こってり天津飯」には「天下一品」のこれからを支えるかもしれないたくさんのヒントが隠されていると筆者は考えている(※書籍では第4章で「こってり天津飯」誕生秘話も紹介)。「こってり天津飯」を発売した2023年1月時点でこってりラーメンは並盛で890円だった。チェーン店としては、通常のラーメンの価格を1000円に乗せることはなかなか考えづらい。
そのなかで、ラーメンではなく「天津飯」を新商品としてもってくることにより、他の目玉商品をつくることにトライした。ラーメンほどは原材料の高騰の打撃を受けないメニューを目玉にもってくることによって、売上のバランスを図ろうとしているのである。そして、なんと「こってり天津飯」は並盛で570円という破格の安さで提供した。こってりラーメンが890円だったことを考えると、驚きの安さである。
この570円という値づけが、価格高騰の流れのなかでは革新的で、価格だけみてもとんでもない新メニューが出てきたという感覚を受けた(※現在「こってり天津飯」「あっさり天津飯」は単品はなく、定食のみでの提供)。
肝心の味だが、これがとてもおいしい。「天下一品」のこってりスープといえば、ラーメンに合わせるのが当たり前という感覚であったが、天津飯に合わせてもこってりスープの魅力がしっかり出ていてとてもおいしいのだ。この「こってり天津飯」を食べることによって、あらためてこってりスープの唯一無二の魅力を感じることができた。
さらに原材料の高騰と戦わざるを得ない状況のなか、この「こってり天津飯」のヒットによってまた新たな道がみえてくるに違いない。
②来店客数
こってりのファンだけでなく、ファミリー層や女性客を集めるために、こってり以外のラーメンをラインナップし、幅広い客層に愛されるお店になるようブラッシュアップを続けている。
「KOTTERIキッズ」は、「天下一品」の公式アプリにおいて、3歳から小学校入学前までの子どもを対象に「お子様ラーメン」を毎日無料提供するクーポンを配布する制度だ。
この取り組みの狙いは、ファミリー層や子育て世帯を取り込むことで来店層を拡大し、家族での定期来店を促すことで客数・客単価の底上げを図ることにある。
これにより、子どもが小さいうちから「天下一品」を“慣れ親しんだ店”と認識させる布石にもなる。
また、子どもが無料なら親が気軽に来店する動機づけとなり、リピート率の向上も期待できる。店舗側でも子ども用のイスや食器を準備することで、家族向けの居心地を強化しており、ブランドのファミリー支持を拡充しようという明確な戦略である。
ラーメンの価格はなかなか上げられなくとも、客単価が上がり来店客数が増えることで全体の改善につながる。いろいろな施策がここにつながってくるのだ。
全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。メディア出演、ラーメンの商品監修など多方面で活躍中。ラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「ABEMA的ニュースショー」「熱狂マニアさん!」(TBS)「サクサクヒムヒム ☆推しの降る夜」(日本テレビ)などテレビ出演も多数。本の要約サービス「フライヤー」執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。著書に『できる人だけが知っている「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム新社)、『ラーメン一杯いくらが正解なのか』(早川書房)がある。(撮影:©伊東武志)