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こってりスープで熱狂的なファンを抱える「天下一品」。競争の激しいラーメン業界で半世紀にわたり支持を集めてきたのは、味だけが理由ではない。『天下一品 無限の熱狂が生まれる仕掛け』(日本実業出版社)から一部を抜粋。天下一品では、映画やアパレルとのコラボを積極的に展開している。一流ブランドが自社ロゴを変えてまで組みたがる理由とは。
映画コラボでお金は取らない

『天下一品 無限の熱狂が生まれる仕掛け』(日本実業出版社)
「天下一品」は映画とコラボすることがよくある。
ポスターの上部が映画の告知になっていて、下部のオビに「天下一品コラボどんぶり」のプレゼントキャンペーンの告知を載せるフォーマットで決まっている。これが大人気で、つねに何かしらの映画とのコラボ企画が走っている。
「天下一品」側としては引く手あまたなので、素材だけ渡して、ポスター制作はすべて映画会社に任せている。ポスターを用意してくれさえすれば、全店に貼り出すやり方で展開している。
キャンペーン用に映画とのコラボどんぶりを必ずつくる。つくる個数はその映画によって10個、20個、100個とまちまちだ。
デザインは、映画の配給会社で許可取りし、規定のフォーマットに沿って「天下一品」の素材を使って好きなようにアレンジする。最後、「天下一品」側のチェックが通ればOKだ。あとは各店にポスターを貼ればキャンペーンがスタートできる。
映画会社のメリットは作品のPRだ。約200店舗にポスターを2〜3週間貼れるだけで大きな露出になる。
そうなると、映画ファンも「天下一品」ファンも非売品のコラボどんぶりが絶対ほしくなる。
どんぶりには「天下一品」の「明日もお待ちしてます」という文言を必須で入れてもらい、逆サイドにその映画のキャッチコピーが入ることが多い。さらに主人公のイラストやロゴなどが入って、レア物になる。なかなか他のラーメン店では例のない展開だ。

コラボ依頼は次々来ていて、よほど内容が悪くなければ受けているが、店も狭くポスターが貼れる枚数も限られているので、同時に複数作品は受けていない。
「天下一品」のキャンペーン告知やメニューの告知も大事なことなので、そこはおろそかにせず、ダブリ調整をしている。時期が合わない場合は「この期間だったらできます」と調整を提案する。
このコラボはもともと「天下一品」がテレビCMを出稿していたころにスタートした。
30秒CMのぶら下がりで最後に「天下一品は〇〇を応援しています」という告知を入れることからコラボが始まった。
店舗へのポスター掲出に加え、こういったメリットをエージェンシーが映画会社に売り込んでいった。それがきっかけでどんどん広がっていった。
「天下一品」はこういったコラボでお金を取らない。
映画のファンが「どんぶりほしい」と食べに来て、認知が広がればそれでOKなのだ。
SNSでパトロールして、ネットで書き込みがたくさん上がっていれば成功だ。
どんぶりの応募も毎回相当数来て、SNSにももれなくアップされる。その時点で完全にWin-Winなのだ。
企業規模や収益ではなく「おもしろくて影響力があるか」
企業コラボは、基本は「天下一品」から提案することはまずなく、先方から提案を受けて検討することがほとんどだ。
ただ、50周年のときだけは、「50周年に何か一緒に楽しいことやりませんか」とホームページで募集をした。
すると、それをみつけて声をかけてきたのがフランスのブランド「le coq sportif」だ。「le coq sportif」のマークがにわとりで、「天下一品」のスープが「鶏がら」なので鶏つながりでどうですか? という提案だった。
奇想天外すぎる提案だったが、「おもしろい」となって、コラボのスニーカーをつくることになった。
そうしたらまさかのフランスの一流ブランド「le coq sportif」が、プライドを捨ててそのロゴマークを「鶏がら」にしてきたのである。にわとりの絵が骨になっているのである。おもしろくてセンスが良く、何より「天下一品」へのリスペクトを強く感じることができた。
シューレースは「麺」「ねぎ」「スープ」からインスパイアされた3本を付属した。「絶対売れへん」「だれが履くの?」と思ったそうだが、実際には即完でプレミアがついて大変なことになった。ビックリするぐらいいろんなところから「もうないんですか?」と問い合わせが殺到した。
歌手の鳥羽一郎さんからもこのコラボスニーカーがほしいと会長に連絡が入った。
鳥羽さんはもともと会長の知り合いで、サイズを確認して渡すと、このスニーカーを履いてテレビに出てくれた。関係者からは「鳥羽が気に入っています」と写真が送られてきて、広報担当は驚くばかりだった。「天下一品」ファンに加え、スニーカーマニアも殺到し、大ヒットになった。

こんなにいろんなコラボが実現するラーメン店はこれまで聞いたことがない。
来るものに対して「おもしろい」と思えば楽しんで取り組む。
社長がバス釣りが好きだということで釣り具メーカーのdepsとコラボしたラーメンフレーバーのついたルアーを発売したり、NANGAとコラボしたアウトドアのダウンジャケットを6万9300円で発売したりと何でもありだ。
ダウンジャケットの裏地はこってりをイメージしたカラーにして、「天下一品」のロゴをデカデカと入れ、龍の舞うデザインに。
広報担当の予想に反して、すぐに売り切れ再販が決まり、そちらも売り切れた。こういった高額商品でも「天下一品」のコアファンは買ってくれる。
むしろファンはデカデカと「天下一品」のロゴが入っているものを好む。「天下一品」ではよくオリジナルTシャツを出しているが、さりげないデザインではなく、ファンは「天下一品」の文字が目立てば目立つほど喜んで着るのだ。
コラボはすべてプロモーション
こういったコラボはすべて「プロモーション」という整理だ。
収入はあくまで副産物で、赤字にさえならなければ前向きに検討する。むしろお金をかけずにプロモーションができるので、「天下一品」の大きな強みになっている。
「天下一品」側はラーメンで手一杯なので、商品アイデアなどはコラボ企業の企画を積極的に採用する。最低限のルールを先に伝え、あとは自由な発想でコラボ企業がアイデアを出してくれる流れだ。
企業コラボは相手が大企業であろうが、中小企業であろうがまったく気にしない。先約優先だ。
大企業からの魅力的なコラボの打診が来たとしても、他と時期が被っていたらズラしてもらえるよう調整してもらう。そこは企業規模で優劣をつけずに、筋を通す。だから先方にも嫌われない。
どこにも角が立たないように調整しながら、来た話をできる限り拾う。
できるだけ予算をかけずにプロモーションを進行するのが広報担当のミッションだからだ。
全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。メディア出演、ラーメンの商品監修など多方面で活躍中。ラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「ABEMA的ニュースショー」「熱狂マニアさん!」(TBS)「サクサクヒムヒム ☆推しの降る夜」(日本テレビ)などテレビ出演も多数。本の要約サービス「フライヤー」執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。著書に『できる人だけが知っている「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム新社)、『ラーメン一杯いくらが正解なのか』(早川書房)がある。(撮影:©伊東武志)