
ソニー平井一夫・元社長 写真提供:ロイター/共同通信イメージズ
自社の課題に正面から向き合い、事業を再建・成長へと導いた一流の経営者たちは、何を羅針盤とし、どのように組織をまとめ上げ、目標を達成したのか。経済ニュース番組の人気コーナー「モーサテ塾」を書籍化した『 鉄人たちの仕事の哲学』(小林洋達著/かんき出版)から一部を抜粋。日本を代表する経営者の思考法や信念に迫る。
ソニー再生に向け、世界各地で現場訪問を行った平井一夫・元社長。従業員との対話においてトップが肝に銘じるべき5つの要諦を語る。
本稿は「JBpress Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2026年1月29日)※内容は掲載当時のもの
モチベーショナル・リーダーシップの実践
――リーダーが見られている5つのポイント

『 鉄人たちの仕事の哲学 』(かんき出版)
■ トップが自ら行き、ハートから語る
トップが常に見られていることの良い例として、現場訪問における5つのポイントをお話ししていきます。
1番目は、先ほども言いましたが、責任者であるトップが自ら現場に行って、説明することが大事です。
なぜこの事業をやめるのか。なぜこの事業を買収するのか。どうしてネットワークビジネスをやらなければいけないのか。トップが自ら説明しに行くことです。
「プレイステーションネットワークを始めよう」という話であれば、全社に関わる話になりますので、全社の責任者、つまり社長が現場に行って、説明しなければダメです。
なぜかと言うと、全社的に「これからの時代は、ネットワークのビジネスが重要だ」と言っているのに、現場へと説明に行くのがナンバー3の役員だったら、「プライオリティーが高いと言っているのに、トップは現場に来なかった。それぐらいにしか思っていないのね」と認識されて、モチベーションがガーンと下がってしまいます。
部署がイニシアティブ(主導権)を握る改革ならば、部長が自ら、インパクトを受ける社員に対して説明を何回もすることが必要です。
関係する部署や、チームのトップが自ら現場に説明をしに行くことが、非常に重要になってきます。それが、現場訪問の意味です。
現場訪問のポイント、2番目は「ハートから語る」です。原稿の棒読みをしないでください。
「新型コロナウイルスも落ち着いてきたから、今日は社長が現場に来て、DXの重要性を説明してくれるんだ」と、現場の社員が待っている中で、社長がやってきます。「皆さん、こんにちは」と言って、あとは原稿を棒読みしたらどう思いますか?
「原稿を読むために、わざわざここまで来たの?」って思いますよね。
何を話すのか忘れないように、手元に箇条書き程度のメモを用意するのはいいと思いますが、あとは自分のハートから語ってほしいのです。
別に噛(か)んだって構わない。上手に話せなくても、「皆さんに伝えたいメッセージがあるんだ」という気持ちを感じたほうが、全然話が入ってくるし、腹落ちもするし、モチベーションも上がるじゃないですか。
「わざわざ原稿を読みに来たのか」と思われたなら、もうそれだけで、内容は心に響かないと思います。
リーダーがよく勘違いするのは、プレゼンテーションの内容よりも、スタイルに意識が向いてしまうことです。「噛まないで、プレゼンテーションするためにどうすればいいですか?」ということではなくて、説明する内容こそが大事です。
ですからぜひ、ハートから語ってほしい。原稿の棒読みだけはしないでください。
■ 改革のマイナス面も語る
現場訪問のポイント、3番目は、改革のマイナス面も語ってください。
これも社員からよく見られているポイントです。
例えば、リーダーが「このDXをうまく進めると、コストが30%下がります。ターンアラウンドタイム(仕事、作業、工程の所要時間)が3割短縮できます。このように、いろんなメリットがあります」と説明します。
もちろん、さまざまなプロジェクトや改革は、メリットがあるからやるわけですが、メリットだけを説明して帰ってしまうリーダーがいるのです。
そうすると、現場はどう思うでしょう?「いやいや、プラス面もあるだろうけど、DXが進んだら、仕事がなくなる部署が出てくるのではないですか? あの事業所はもう要(い)らなくなるのですか?」というような疑問が出てきます。
どんな改革にもマイナス面があるわけです。それを語らずに帰ってしまうと、社員のモチベーションは下がります。「プラス面だけ話して帰っちゃったよ」と思われるからです。
そうならないように、改革の影響を受ける彼ら彼女らに対しては、配置転換をするとか、リスキリングするなどの対策をちゃんと説明する。
「改革のプラス面とマイナス面の両方をリーダーがちゃんと語ってくれている」となれば、モチベーションは上がります。
社員の皆さんは、よく状況をわかっているので、改革のプラス面だけを話せば、「結局、マイナスの部分は何も話さずに逃げて帰ったよ」と思われて、チームのモチベーションは下がります。
リーダーが、マイナス面についても徹底的に話してくれたら、モチベーションは上がります。
ということで、プラス面だけじゃなくて、マイナス面も必ず語ってください。
■ 人間と人間の対話をする
現場訪問のポイント、4番目はライブで質疑応答をしてください。
「どんどん質問してください」と言わなければダメです。
会社によっては、リーダーが現場に来る時に、人事部門が質問を事前に集めたりします、その中から、当たり障りのない質問を選んで、質疑応答のコーナーで、人事担当者が質問を読み上げたりするわけです。
冗談のような話ですが、そういうことが本当にあります。
さらに、質問への回答も広報担当者がちゃんと用意してくれていて、社長がそれを棒読みする。どこかの国の国会答弁みたいな質疑応答コーナーが、実際にあるわけです。
絶対にそれをやってはダメで、ライブで質問を受けるべきです。
わからなければ、「わからない」って言えばいいじゃないですか。「後で調べてお知らせします」と言えばいい。答えたくなければ、「こういう理由で答えたくありません」って言えばいいじゃないですか。なんでそれが問題なんですか?
ということで、社員のモチベーションを上げるために、ぜひライブで質問を受けて、社員とのインタラクション(相互交流)を大事にしてください。
現場訪問のポイントの5番目。これで最後になりますが、「人間と人間の対話」をしてください。
これもEQに関係してきますが、「社長が社員に語る」のではありません。「部長が社員に語る」のでもありません。「人間が人間に語る」というスタンスで現場に行かないと、どうしても上から目線になってしまい、結果としてモチベーションを下げてしまいます。
だから、いろんな説明をする時には、社長、部長、係長、グループリーダーというような肩書は脇に置いて、「私は一人の人間として皆さんと対話をしたい」というスタンスを、自分の心の中にちゃんと持つようにしてください。
筋書きのない、インタラクティブ(双方向)な意思疎通に基づくリーダーシップというのが、非常に重要なのです。
1998年にテレビ東京入社後、報道一筋。「ワールドビジネスサテライト」、東証・日銀担当記者、「ガイアの夜明け」立ち上げ、北京支局、「カンブリア宮殿」、ニューヨーク支局、「Newsモーニングサテライト」などを担当。経済を切り口にドキュメンタリーを多く制作し、北京五輪開催を控えた中国では「癌の村」や「胡同の町の強制立ち退き」の記録を制作。2018年1月から2022年1月までの4年間はニューヨーク支局に赴任し、新型コロナウイルス感染拡大や、BLMなど社会を揺るがす市民運動、異例づくしの大統領選などを特集した。「ガイアの夜明け」では、2003年のイラク戦争が開戦するまでクウェートで長期取材したほか、2012年には中国で反日暴動に襲撃された日系の百貨店「平和堂」が再開するまでを潜入取材した。「カンブリア宮殿」では、サッカーW杯・南アフリカ大会で初の16強入りを果たした岡田武史元監督の独占取材を行う。2025年4月から「ガイアの夜明け」チーフ・プロデューサーを務める。本書は自身がプロデュースしたNewsモーニングサテライトの人気コーナー「モーサテ塾」を書籍化。テレビでは伝えきれなかった部分を含めて、再構成しわかりやすくしたものである。
