写真提供:CFOTO/日刊工業新聞/共同通信イメージズAIが情報を集め、思考し、クリエイティブまで生成する時代に、人間に残された創造性とは何か。『超・アート思考』(実業之日本社)から一部を抜粋。代替不可能なユニークさを生み出す思考を手がかりに、人間ならではの表現や価値を考える。
起業とは似て非なる「企業内新規事業」。会社によって成功の条件がまるで異なる中で、事業を軌道に乗せるために必要なことは?
新規事業はなんのため?

『超・アート思考』(実業之日本社)
これまでに企業で10年以上、新規事業の立ち上げをしてきました。
・従業員2万人規模の超大企業・NTTドコモ
・従業員2千人クラスのメガベンチャー・DeNA
・従業員2百人規模から上場したベンチャー・ランサーズ
・そして数人から始まった自社uni’queとメタバースクリエイターズ
ひと桁ずつ規模の異なる環境で、(コンサルではなく実行者として)新規事業を経験した人というのはそれなりにレアなようで、これまでにたくさんの企業から新規事業の相談を受け、アドバイザーとして伴走してきました。
企業内新規事業を経て起業し、今も自らon-goingで事業をしつつ、企業のアドバイザーをする中で、「新規事業」にはいくつかの誤解があることに気づきました。
たとえば新規事業はアイディアと熱意さえあれば立ち上がる、と思われがちですがこれはまったくの誤解(妄想?)です。
起業してみてはっきりとちがいが分かったのですが、起業と企業内新規事業はまったく別のゲームです。
両者の最も大きなちがいは「オーナーシップ」です。起業家は株を自分でもっていますから、基本的には自分で意思決定ができます。しかし、企業内新規事業の場合、「事業責任者」であっても基本的には一株ももっていません。これは起業家で言えば会社設立時に100%他人に株を譲ってしまってから事業をスタートするみたいなもので、両手両足を縛られて戦うような不自由さがあります。起業家はたとえ赤字でも資金を調達できる限り事業を続けることができますが、企業では事業責任者がいくら事業に思い入れをもって存続を願っても、会社がつぶすと言えば事業を畳まざるを得ないのです。
また、起業家が基本的には自分でメンバーを集めるのに対し、企業内新規事業では事業を行うチームのメンバーも基本的には会社からのアサインによるので、本人やチームの意思とは別に転属を命じられることもあります。企業の新規事業とはつまり、会社のオーナーシップのもとで、借り物のリソースを使って経営する「雇われ店長」のようなものなのです。
「アートは自分がクライアント」という言葉があります。起業家もまたある程度「自分がクライアント」と言ってよいでしょうが、企業内新規事業の場合、クライアントは自分ではなく「会社」です。ですから企業内新規事業では「期限」と「約束」をしっかり確認しておかなければなりません。
アート思考からはすこしそれるので本書ではあまり詳しくは書きませんが、企業から新規事業の相談を受けた際にすることが3つあります。「事業のミッション」、「事業のコアバリュー」そして「事業のフェーズ」をそれぞれ定義することです。これらが明確になり三位一体でないと、事業はだいたい迷走することになります。
一つ目の「事業のミッション」の定義は、いつまでになにをなしとげるか、つまり達成すべきKGI定義にあたります。「そもそもなんのために事業を立ち上げるのか?」。
企業でこの質問をすると、第一声では「売上」「利益」という答えが返ってきます。しかし、よくよく議論してみると、実はそれが第一目的ではないケースも多いのです。企業が事業を始める理由というのは「売上」や「利益」の他にも、「ブランディング」、「採用広報」、「経営層の育成」や「組織の若返り」など、たくさんあるのですが、それに優先順位がつかないまま、「なんとなく」事業を始めてしまうケースがとても多く、これが後々の不幸を生みます。
もっとひどいことに、新規事業をすればこれらの目的がすべて叶えられるという幻想が抱かれているケースもあります。ですが、少し考えれば分かるように、これらのミッションは両立できるものばかりではなく、むしろ背反することのほうが多いのです。
たとえば一緒にされがちな「売上」と「利益」も、実は別ものです。売上拡大が第一で、売上さえ上がるなら利益率の低い商売でも始めよう! という企業もありますし、IT企業など利益率を重視する経営者であれば利益率が5%以下の低利益事業はやらないという判断をするでしょう。月に5万円でも黒字なら事業を続けていてもいい、という企業もあるでしょうし、そんな小さい商売やっても仕方ない、と別の企業では言われるかもしれません。
利益が出ない赤字事業は意味がないかというと、必ずしもそうではありません。赤字であってもユーザーを獲得し既存事業に貢献できるのであればOKのケースもありますし、PR効果が目的で、先進性のアピールができるなら売上すら立たなくてもいい、というケースもあります。
おなじ結果を出しても、A企業では成功とされ、B企業では失敗とされたりします。1年で「期待はずれ」と言われてある企業でつぶされた事業が、別の企業では時間をかけて大きく花開くケースもあります。事業ミッションからして実は共通の一般解はなく、企業ごとの「自分」らしい定義が必要なのです。
建築士としてキャリアをスタート後、アート研究者を経てIT業界に転身、ドコモやDeNAにて多数の新規事業を立ち上げ、2017年「全員複業」ベンチャーuni'queを創業し、東洋経済「すごいベンチャー100」に選出。女性特化のインキュベーション事業『Your』から多数の事業を創出しWork Story Awardでイノベーション賞を2度受賞。2023年、日本から世界を席巻するコンテンツを創出するスタートアップ・メタバースクリエイターズを創業し、IVS LAUNCHPAD SEED2024で3位入賞、SBIインベストメント主催SEAでグランプリと電通賞をW受賞するなど注目のスタートアップとなる。資生堂など数々の企業の新規事業アドバイザーを歴任。ビジネスだけでなくアートや教育、ダイバーシティ関連でも取材、講演多数。著書に『超・アート思考』など。福岡女子大学客員教授、長野県立大学客員准教授。